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“ほぼ”デイリーシネマ

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「ムーンライト」はドラクエ5だった? ネタバレなしレビューと感想

ミスにより作品賞受賞作が間違えて発表されてしまうという、前代未聞の事態が発生した第89回アカデミー賞

ラ・ラ・ランド」の大勝利が確実かと思われていた中、作品賞を受賞したのが今回紹介する「ムーンライト」です。

目次

ムーンライト

あらすじ

薬物中毒の母を持つ黒人の少年シャロンは、同級生からのいじめや、母の育児放棄によって心を閉ざしかけていた。

そんなシャロンを気にかけ、親の代わりに愛情を注いでくれたのは、ドラッグの売人フアンだった。

徐々にフアンと打ち解け始めたシャロンは、やがて自身が同性愛者である可能性を彼に打ち明ける……。

ドラクエ5式のダイナミックな時間送り

「ムーンライト」は主人公シャロンの半生を、少年期、思春期、青年期の3幕に分割して語ることが構成上の大きな特徴となっています。

見出しにある通り、この構成はドラクエ5の少年時代、青年時代(結婚まで)、青年時代(石化解除後)という3幕構成と似通っています。

では具体的にどこか類似しているのか?

それは幕間(本編で語られず、飛ばされる部分)で、数年間という長い劇中時間が流れることです。

幕間が長いと、観客(もしくはプレイヤー)は当然その幕間で主人公に何が起きたのかを想像で補います。

ドラクエ5の少年時代編はラストに主人公が魔王に捕まることで幕を下ろします。そして続く青年時編(前半)が始まった時、主人公は奴隷として強制労働をさせられています。

この時、プレイヤー側からすればボタンを押すだけの数十秒の時間経過にすぎませんが、劇中では何年もの時間が経っているわけです。プレイヤーは自分が主人公を操作できなかった間に、主人公がどんな辛い思いをしたかを否応なしに想像させられます。

なぜあえて重要なシーンを描かずに飛ばしてしまうのか、それは受け手に想像させることで作品世界により広がりができるからではないでしょうか。

 「ムーンライト」は映画で語られない部分(幕間)でシャロンの人生における転換点となるような事件を起こします。

また映画が進むにつれて主人公は成長し、変化していきますが、成長する瞬間やその過程を見せること(たとえばロッキーのトレーニングシーンのような)はほとんどしません。

並みの映画監督ならエモーショナルに撮りたくなるような出来事は、あえて撮影すらせず、主人公が〇〇歳の時に起こった出来事という設定として映画に盛り込んでいるのです。

影技術やCGが発達した映像メディアは、さまざまな物や事件を表現することが可能になりました。しかし、映画が積み上げてきたのは「いかに見せるか」という技術だけではありません。

ジュラシック・パーク」でスピルバーグがギリギリまで、ティラノサウルスの全貌を明らかせず、間接的な表現でティラノサウルスの存在を表したように、本作は「いかに見せないか」という点が計算され尽した作品なのです。

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幻想的な映像とそれを裏打ちするキャスト陣の演技力

ブルーとピンクで構成された「ムーンライト」のポスターは印象的で目を引きますが、映画本編も独自の美麗な色彩世界が作り上げられています。

本作はデジタルで撮影した映像の色に後から手を加えており、3幕構成の章ごとに色の仕上がり方が異なっているんですね。

もうとにかく顔のアップが素晴らしくて、映っている役者が目の前にいるように感じるような映像となっていました。

映像に臨場感が溢れるもう一つの要因は、いぶし銀な黒人俳優たちの演技。

助演男優賞マハーシャラ・アリはもちろんのこと、ダニエル・クレイグ版「007」のマネー・ペニーで有名なナオミ・ハリスも、薬物でおかしくなった母親の情緒不安定ぶりをリアリティたっぷりに演じています。サミュエル・L・ジャクソンに劣らない「マザーファッカー」を披露してくれます。

そして外せないのが主人公シャロンを演じる三人の俳優たち。

三人は撮影中意図的に顔を合わせなかったらしく、おかげで役者ごとの微妙な演技の差が生まれ、「シャロンが成長して変化した部分」が上手く表現されていました。

まとめ-このアメリカの片隅に-

黒人で、ゲイで、母子家庭で、いじめられっ子。

本作の主人公シャロンは、アメリカが散々苦しめてきたマイノリティの象徴のような存在です。

「ムーンライト」がオスカーをものにしたのは、複合的な意味でマイノリティである少年を主人公としたのが大きなファクターのひとつでしょう。

今回のアカデミーは政治色が強い、と言ってしまうとどこか聞こえが悪くなりますけれども、「ムーンライト」は間違いなく今のアメリカ、世界に必要な作品です。

映画の世界ではアメコミヒーローが異次元からの敵と戦い、現実で白人同士が大統領選で罵り合う間にも、世界の片隅で不自由している人たちがいる。

「ムーンライト」はその事実をを幻想的な月明かりで照らし出してみせた、すべての人に見てもらいたい作品です。

 

 

 

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