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【北野武】全作品解説「その男、凶暴につき」【感想と考察】

どうも、もゆるです。

不思議なもので一度落ちた更新頻度ってなかなか戻せないものですね。

それはともかく10月の「アウトレイジ 最終章」に向けてちゃっちゃと北野映画の解説を進めていきます。

今日取り上げるのは北野武の処女作「その男、凶暴につき

その男、凶暴につき [DVD]

目次

概要

ビートたけしから北野武

記念すべき北野武監督の一作目の映画「その男、凶暴につき」。

この映画、元々は「仁義なき戦い」や「バトル・ロワイヤル」の深作欣二が監督を勤める予定で、ビートたけしはあくまでも主演でのキャスティングだったというのは有名な話です。

作監督のスケジュールの都合でビートたけしにメガホンが回ってくるという偶然によって、監督北野武は誕生したのですね。

北野の作家性が凝縮された作品

「処女作にはその作家の全てがある」とはよく聞く話ですが、「その男」には以降の北野作品で頻出する要素がしっかりと入っています。

具体的には「沈黙」、「死」、「ヤクザ」、「暴力」、そして「笑い」ですね。言ってしまえば北野は処女作以降何度も「その男」を作り直していると言ってもいい。それほどまでに「その男」には監督北野の作家性が凝縮されています。

大幅な脚本の変更

その男、凶暴につき」では北野武はまだ監督・主演しか(監督・主演を「しか」と言うのもどうかと思いますが)勤めていませんでした。編集や脚本は他のスタッフが担当していたんですね。

しかし、実は「その男」では北野が撮影中に脚本を変更につぐ変更で改稿しまくり、結果的に野沢尚の書いた元の脚本からかなり離れた作品になっているようです。

なんでも監督が当日の撮影分の脚本をいきなり変更するもんだから、スタッフが撮影現場の近くの会社でコピー機を借りて新しい台本を刷ったりしていたんだとか。

その辺の撮影時のウラ話が気になる人は是非『監督たけし 北野組全記録』をご覧ください。

監督たけし―北野組全記録

監督たけし―北野組全記録

 

 

あらすじ

中年刑事の我妻(ビートたけし)はなにかと暴力沙汰ばかり起こす署内でもいわくつきの問題刑事。

新人刑事の菊地(芦川誠)と共に麻薬がらみの殺人事件を追う我妻だが、事件の根は想像以上に深く、警察側からも死傷者が出るほどの騒ぎへと発展していく。

持ち前の凶暴さを抑えられない我妻は如何に事件の決着をつけるのか。

めちゃめちゃ怖くした『こち亀

その男、凶暴につき」がどんな映画か、一行で書くとしたら「常識外れな警官がめちゃくちゃやる話」といったところでしょうか。

我妻はまさに映画のタイトル通り、相手が学生だろうが平気で暴力を振るう凶暴な男です。けれども彼は凶暴なだけではなくて、たまにジョークを言う愉快なおじさんでもある。

この映画は北野作品の中でも特に緊張が持続する作品ではあるものの、それでもちょくちょくコントのような演出が出てきます。犯人を車で追ってたら我妻が車の操作を間違えてワイパーが動いちゃって「なんだコノヤロッ、なんだコノヤロー!」とか言い出したり…(ちなみにこれは本当ににたけしが操作を間違えてあたふたしているカットを面白いから採用したんだそう)

存在感を放つ沈黙

※ここから若干ネタバレが入るので気になる方は注意

北野映画最大の特徴とも言えるのが、限界まで押さえられたセリフの量。

特に「その男、凶暴につき」では刑事を辞めて以降、我妻は一切言葉を発さなくなります。役者が無言になることでこの映画には独特の迫力が生まれていますが、実は北野映画における沈黙はこんな理由から生まれたんですね。

「我妻やってるときも、次のカットが気になってしょうがないんだよな。だから役作りもなにもあったもんじゃない。ただやってるって感じになっちゃってさ。だめだよ、ありゃ。だから我妻の台詞もほとんどなくしちゃってさ、ただオレが大変だからって理由だけなんだけど、逆に迫力出ちゃったね、~以下省略」

              『監督たけし 北野組全記録』 佐々木桂

要約すると、「監督と役者を一緒にやると大変だったから役者分の負担を減らすためにセリフを減らしたら逆に迫力が出た」てな感じでしょうか。

セリフが少ないからこそ演技が自然になり、それによって役者が持っている本来の魅力・迫力が引き出される。北野作品の沈黙は役者を引き立てる最高のスパイスです。

日本版「ダーティーハリー」

『監督たけし 北野組全記録』のプロローグにはこう記されています。

その男、凶暴につき』の撮影台本は灰色の表紙だが、その前に二つの台本があった。

白い台本と黄色の台本。

白い台本を見ると、そこには監督として深作欣二さんの名が刷り込まれている。主演はビートたけし。その映画は『ダーティーハリー』の日本版ともいうべき、大アクション映画になるはずだった。

 この文章を書いたのは佐々木桂なので、脚本の野沢尚や監督を予定されていた深作欣二がそれを想定していたかはわかりませんが、もともと「その男」は日本版「ダーティーハリー」になるはずだったんです。

いや、アクション映画ではないという点さえ目を瞑れば「その男、凶暴につき」は「ダーティーハリー」と相当近い映画になっています。

既存の法律に縛られない刑事が凶悪な殺人犯を捕まえようと奔走し、一度は捕まえるものの逃げられ、最終的に主人公が刑事を辞めて個人として犯人を殺す。「ダーティーハリー」も「その男」も単純化してしまえばストーリーは同じです。

また我妻がでっち上げ別件逮捕で清弘(白竜)を警察署に拘留した後のシーンで、我妻がわざと清弘の手の届く場所にナイフを置いておき、清弘がナイフを手に取ったら銃殺するという作戦を実行しますが、これはもう間違いなく「ダーティーハリー」のオマージュでしょう。

ダーティハリー [Blu-ray]

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その男、天才につき

多忙な北野は「その男」撮影中も、本業であるビートたけしとしての仕事を辞めず「オールナイトニッポン」やテレビ番組に出続けていました(一週間撮影したら次の週はテレビ・ラジオ……という具合で回していた)。

専業の映画監督のように一日中映画のことばかり考えていられる状況ではなく、かつ初めての監督でここまでの傑作を作り上げた北野に相応しい言葉はもう「天才」しかないでしょう。

テレビで見るビートたけししか知らないあなたも、そもそもテレビも見ないからビートたけしに興味のないあなたも、とにかく北野武の映画を見てください。面白い事は保証します。

ちなみに「アウトレイジ 最終章」の公開に乗じてか、北野武作品が続々とブルーレイになってますので、是非!

 

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