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【レビュー】デカいグルート、少年救う。「怪物はささやく」

映画が誕生して以来「登場人物の感情をどのように表現するか」という命題は多くの映画作家を悩ませてきました。

どれだけ性能のいいカメラでも人の心の中は映せません。だからこそ映画はその歴史の中で、役者の顔を大写しにするクローズアップなどの感情描写技術を確立させてきました。

今日紹介する映画は、繊細な少年の心理をCGやアニメーションなども用いながら巧みに表現した「怪物はささやく」です。

※本編の内容について若干のネタバレがあります

目次

怪物はささやく

 あらすじと概要

イギリスの文学賞であるカーネギー賞ケイト・グリーナウェイ賞をW受賞した同名小説の映画化作品「怪物はささやく」(原題「A MONSTER CALLS」)。メガホンをとったのは「ジュラシック・ワールド2」の監督を予定されていて、絶賛出世街道まっしぐらなJ・A・バヨナです。

肝心のストーリーは、センチメンタルな少年コナー(ルイス・マクドゥーガル)が癌で余命幾ばくもない母親(シガニー・ウィーバー)の死を受容する過程でいかに成長していくか……とここまではよくある話ですが、タイトルにもある「怪物」が少年が成長するうえで重要な立場を担っています。

深夜12時07分きっかりに現れるでかいグルート巨大な樹の怪物は、コナーに「これから私は3つの物語を語る。そして3つの物語を語り終えた後でおまえ自身に4つめの物語を語ってもらう」となにやらよくわからないことを言い出す。

コナー少年は意味もわからないまま怪物の語る物語を聞かされ、それにつれて徐々に自身の認識や行動を改めて成長していく……というのが大方のストーリーになっています。

 

J・A・バヨナの作家性

新進気鋭の映画監督J・A・バヨナ。彼はこれまでに「永遠のこどもたち」「インポッシブル」と2本の映画を監督していますが、それら2本の映画と今回の「怪物はささやく」にはいくつかの共通点があります。

まず一つ目の共通点は親と子の関係を描いた物語であること。ジャンルがホラーでも事実を基にした作品でも、親子の話であるという点はブレていません。

もう一つの共通点は現実と虚構の境界線が曖昧な映画であるということ。スマトラ沖地震の実話を基にした「インポッシブル」は例外ですが、ホラーミステリー永遠のこどもたち」では、幽霊は実在するのかそれとも主人公の妄想なのかが非常に曖昧に演出されていて観客を困惑させるように作られています。それに「永遠のこどもたち」の制作総指揮にあたったギレルモ・デル・トロの「パンズ・ラビリンス」も虚構と現実が入り混じったような作風で、バヨナ監督がデル・トロから影響を受けた可能性は捨てきれません。

怪物はささやく」は21世紀の「ファイト・クラブ」である

前章で「怪物はささやく」は、現実と虚構の境界線が曖昧な映画だと述べました。ではどのあたりが“現実と虚構の境界線が曖昧”なのでしょうか。

本作に登場するイチイの木の怪物は、登場するたびにコナーの家をめちゃくちゃに破壊しますが、怪物が消えた次のカットでは破壊された家は元に戻っています。またコナー以外の人は怪物の存在に気づきもしません。これは怪物は虚構の存在、主人公の妄想の産物のような存在であることを示す描写と考えるのが妥当でしょう。

ところがコナーの妄想の産物であるはずの怪物は、コナーの知らないことを知っていて、それを彼に「3つの物語」として語ります。

ある意味では怪物は、コナー自身の無意識が擬人化したものだと考えられます。怪物はコナーが自覚していないながらも心の底で思っていることを知っています。コナーは自分の妄想が生み出した怪物とのやり取りを通して、自身の本当の気持ちに向き合っていくのです。これってまるで「ファイト・クラブ」みたいな話だと思いませんか?

 妄想の世界で破壊行為に夢中になっていたコナーが、気がつけば現実で家の家具を木端微塵になるまで壊していた、というシーンがあります。このシーンは主人公がずっと内側に秘めていたストレスやフラストレーションが爆発する場面であり、コナーと怪物の二重人格性が露になる場面でもあります。

トーリーに負けない映像の魅力

本作はCGとアニメーションを使った映像表現が観客に飽きを感じさせないように映画を演出しています。

リーアム・ニーソンモーションキャプチャーで演じた怪物の動きがダイナミックなのは言わずもがな。公式からメイキング映像がupされていますが、さすが手が込んでます。


「怪物はささやく」メイキング映像【怪物をつくりあげるまで】

さらに特筆したいのは、怪物がコナーに物語る際に流れるCGアニメーションについて。3DCGと二次元の水彩画の中間をいくような映像は、「風ノ旅人」や「LIMBO」など往年の二次元風グラフィックを用いたゲームを想起させます。

制作したのはCGアニメ「Trollhunters」でアニー賞3部門受賞を果たしたヘッドレス・プロダクション。余談ですがデル・トロが制作総指揮を務めた「Trollhunters」は、netflixにて視聴可能です。


「怪物はささやく」アニメーションメイキング映像

ジュラシック・ワールド2」の期待高まる

ジュラシック・ワールド2」の監督に大抜擢されたJ・A・バヨナ。彼のこれまでのフィルモグラフィには、「ジュラシック・ワールド」のような完全にエンタメに振り切った作品はありません。

師匠筋にあたるデル・トロは「ヘルボーイ」や「パシフィック・リム」などのエンタメ作品と「パンズ・ラビリンス」のような真面目な作品を上手く撮り分けていますが(押井守の発言)、バヨナ監督はザ・エンタメ映画な「ジュラシック・ワールド」をどう料理するのでしょうか。

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