「キングコング 髑髏島の巨神」前に復習しておきたい「地獄の黙示録」
いよいよ今週末に公開を控えた「キングコング 髑髏島の巨神」。ゴジラと肩を並べる怪獣界の大物スター、キングコングは日本人にはやや馴染みの薄い部分もあるでしょう。しかし今後立て続けに公開されるレジェンダリーモンスターバースがある以上、「髑髏島の巨神」を見ない手はありません。
そこで当記事は、「髑髏島の巨神」をより理解するための予備知識として、「髑髏島の巨神」がオマージュを捧げた「地獄の黙示録」についての解説を行います。
もちろん時間がある方は「地獄の黙示録」を見返していてもいいのですが、「地獄の黙示録」は特別完全版では3時間20分ほどある長尺映画で、映画としてのクオリティこそ高いものの、後半はかなりダレてきて見るのが辛くなる映画でもあります。
3時間越えの「地獄の黙示録」を見る気力、時間の無い方はぜひこの記事で内容をおさらいしてください。
激シブの境地
目次
「髑髏島の巨神」と「地獄の黙示録」の関係性
「キングコング 髑髏島の巨神」がフランシス・コッポラの「地獄の黙示録」を意識して制作されていることは、ポスター公開当時などから話題にされていました。
オレンジ色の夕日を背に立つキングコングと、ベトナム戦争で活躍したアメリカ軍のヘリUH-1が描かれたポスターは、「地獄の黙示録」のポスターとそっくりです(今回のキングコングは時代設定がベトナム戦争終結直後)。
また監督のジョーダン・ボート=ロバーツ監督自身も「地獄の黙示録」との関連についてインタビューなどでたびたび語っています。
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「地獄の黙示録」のあらすじ
時はベトナム戦争末期、休暇中のアメリカ軍大尉ウィラードの元にある指令が言い渡された。
「カーツ大佐を暗殺せよ」
優秀なアメリカ軍人だったはずのカーツ大佐は、ベトナムで戦ううちにアメリカへの不信を募らせていた。音信不通となった大佐は、現地のジャングルで自分の王国を築いているという。
ウィラードは四人の部下を引き連れて暗殺に向かうが、彼は任務の道すがらベトナム戦争を戦う兵士たちの狂気を目の当たりにする。
得体の知れない男を追う旅の中で、ウィラードの心も徐々に狂気に蝕まれつつあった……。
地獄めぐり映画
本作は尺の大半をウィラードが暗殺対象のカーツ大佐にたどり着くまでの過程に割いています。ベトナム戦争真っ最中の戦場は渾沌そのもの、ウィラードはそこで明らかに精神に異常をきたした男たちを目の当たりにします。
ワーグナーを流しながら爆撃し、弾丸や爆弾飛び交う中でサーフィンをしようとする中佐
慰安のためにやってきたポルノ女優に群がる男たち
指揮官なしで戦い続け半狂乱の男たち、植民地に固執するフランス人
そして現地人を統治し王となったカーツ大佐。
人間の狂気をここまで執拗に描いた映画はなかなかありません。本作はヘリや銃器などの物質面でリアリティを追求していますが、同時に人間の心の闇についても核心に迫るような鋭い描き方をしている作品です。
この映画はベトナム戦争についての映画なのか?
「地獄の黙示録」はベトナム戦争を扱った映画としては5本の指に入るほど有名な映画です。しかし、本作は前半から中盤にかけてこそベトナム戦争をフィーチャーしていますが、映画後半の舞台となるのは、カーツ大佐が支配するジャングルの王国です。
そして主人公のウィラードに与えられた任務はカーツを殺すことであり、映画内で彼はベトナム戦争そのものに関与する立場ではありません。あくまで劇中のウィラードはベトナム戦争の傍観者に過ぎません。傍観者だからこそ、兵士たちが陥った狂気を客観的に見ることができるのです。
その点で本作は「フルメタルジャケット」や「プラトーン」のような、ベトナム戦争で戦う兵士を主人公に添えた映画とは少し異なっています。
『闇の奥』
「地獄の黙示録」には原作があります。それは『闇の奥』という1899年に発表されたジョゼフ・コンラッドの小説で、物語全体の構造は「地獄の黙示録」と非常に似通っています(アフリカ奥地にいるクルツという人物に主人公が会いに行くが、クルツは狂気に蝕まれていたという話)。
この『闇の奥』は2005年版のキングコングで引用されており、そのことも今回のキングコングが「地獄の黙示録」をオマージュしていることに関係しているかもしれません。
ちなみに「髑髏島の巨神」の主人公(トム・ヒルスドン)の役名はコンラッドであり、お気づきの通りこれは『闇の奥』の著者ジョゼフ・コンラッドから取られたと考えて間違いないでしょう。
「秘境」という異界
上でも少し述べたように「地獄の黙示録」は後半に入るとベトナム戦争から離れ、カーツ大佐の支配するジャングルの奥地へと舞台を変えます。
文明の手が及んでいない未開の地、すなわち秘境という舞台こそが『闇の奥』および「地獄の黙示録」、そして「キングコング」を結ぶ共通項です。
世界にはまだ人類未踏の場所があり、そこには人知を超えた何かが存在する、という発想は人工衛星が軌道上を飛び回り、誰でもグーグルマップで世界中を見物できる現代では前時代的発想に思えます。
しかしだからこそ今回の「髑髏島の巨神」の時代設定は、現代でなくベトナム戦争終結直後なのでしょう。2017年にもなって今更「こんなところに未発見の島があった!」というのはいくらなんでも通用しないでしょうから。
まとめ
最終的に「地獄の黙示録」の話なのか「髑髏島の巨神」の話なのかがわからなくなるような記事になってしまいましたが、この記事で少しでも本作の雰囲気が伝わっていれば幸いです。
あと「髑髏島の巨神」のレジェンダリー・ピクチャーズが制作した、「グレートウォール」というモンスター映画も4/15より日本で公開されます。こちらはキングコングほど宣伝されていなかったので私も今日気づきました。マット・デイモンが主演みたいでこちらもなかなかに期待できそうです。
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