アメリカとハリウッドを風刺し続ける者バーホーベンと「トータル・リコール(1990)」について
ポール・バーホーベンとディストピアSF
映画史上最も偉大な監督は誰か?という質問をすれば、回答は人によりさまざまでしょう。
ですが映画史上最も悪意と風刺に満ち溢れた監督は誰か?と聞かれれば、それはもうポール・バーホーベンと答えるほかありません。
ディストピアSF特集と称して続けてきた連続レビューの最後に、ポール・バーホーベンを取りあげたいと思います。
なぜならバーホーベンこそが、SFを風刺として語るのが世界一上手い男だからです。
「ロボコップ」「スターシップ・トゥルーパーズ」も捨てがたいのですが、今回紹介するのは「トータル・リコール(1990)」。
目次
あらすじ
人類が火星を植民地とするようになった近未来。
ある日、肉体労働者のダグラス・クエイドは火星旅行を疑似体験するため、「記憶販売」を行うリコール社に赴いた。
クエイドに疑似記憶の定着が始まった時、突如として彼は暴れだした。記憶の定着がクエイドに「何か」を思い出させたのだ。
それ以降クエイドは謎の武装集団に追われることになる。
自分は誰なのか? 自分を追う奴らは何者なのか?
クエイド自身も知らぬ彼の過去を清算するための戦いが幕を開ける……。
バーホーベン映画の残酷さ
導入にもあるように監督はポール・バーホーベン。
第二次世界大戦時のオランダで子供時代を過ごしたバーホーベン、戦争によってもたらされた死屍累々の光景は、彼の映画に強い影響を与えているようです。
内臓が飛び散る、腕や足がもげる、首が飛ぶ、と残酷描写のオンパレードなのがバーホーベン映画の特徴です。そして彼お得意のゴアシーンが最も顕著なのが「スターシップ・トゥルーパーズ」。
ちなみに「トータル・リコール」はそこまで極端なグロはありませんが、放射能によって変異した人間のビジュアルイメージは強烈です。
わかりやすい例として乳房、いやおっぱいが3つある女性が出てきます。そしてさらに登場人物に「手がふたつじゃ足りないぜ!」なんて言わせます。
これがバーホーベンの映画なのです。
バーホーベン映画の風刺性
彼の映画の第一の特徴が過剰なまでの残酷描写だとすれば、第二の特徴は風刺性です。
戦争が大好きなアメリカを痛烈に皮肉った映画「スターシップ・トゥルーパーズ」は、1997年に制作されていながらまるでイラク戦争を予期したかのような内容になっています。
また「トータル・リコール」の火星の入植者が資本家にこき使われているという設定も、アメリカを強く連想させますね。
痛烈な社会批判を残酷描写でデフォルメし、わかりやすくかつエンターテイメントとして提示するのがバーホーベン映画なのです。
事実「ロボコップ」「スターシップ・トゥルーパーズ」「トータル・リコール」のどれもが単なるアクション映画として見ても面白い作品になっています。
そろそろトータル・リコールの話をしよう
さて監督の話ばかりしていて「トータル・リコール」話題から少しずれてしまいましたので、話を戻しましょう。
主演はアーノルド・シュワルツェネッガー、当作でもお馴染みの最強人類っぷりを発揮します。撃たれたり切られたりすれば血を流しますが、それはそれとして普通に動き回りますし、明らかに人間の限界を越えた腕力を発揮します。「トータル・リコール(1990)」は間違いなく、シュワちゃんがいなければ成立しない映画です。
シュワちゃんの嫁さん役はシャロン・ストーン、いい感じに悪くてエロい女を演じています。
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ラストシーンの意味
この先ちょっとネタバレがあります、ネタバレが気になる未見の方はお先に映画を見てください。
「トータル・リコール」のラストは一見単なるハッピーエンドに見せかけて、そこに劇中最大のブラックジョークが仕込んであります。
当作のラストシーンは、「映画と映画を見ている私たちの関係」をパロディしているのです。
映画が終わりエンドロールが流れると、観客の私たちは否応なしに現実に放り出されます。この映画は「映画の持つ虚構性」をこれでもかというほどに提示するのです。
「ロボコップ」も「スターシップ・トゥルーパーズ」も単純なハッピーエンドでないことを考えれば、当作のラストシーンについても解釈がしやすくなります。