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「スパイダーマン:ホームカミング」に学ぶマーベルの絶対に外さないものづくりの法則

2008年の「アイアンマン」から自社スタジオ独自で映画製作を始め、今やハリウッド大予算映画の代名詞となったマーベル映画。

ピクサーと並んでハズレのない名作続きのマーベル実写映画はどのような思考で作られているのでしょうか?

スパイダーマン:ホームカミング」で再確認したマーベルスタジオの外さない映画作りについて考えてみましょう。

アメイジング・スパイダーマン (字幕版)

目次

大前提:マーベル・スタジオは映画を外せない

マーベルが制作しているような予算数億ドル越えの大予算映画が俗に「ブロックバスター映画」と呼ばれているのはご存じでしょうか。マーベルの実写作品はCGや大規模セットを多用しており、キャスティングも実に豪華で、そのため毎回数億ドルもの予算で映画を制作しているのです。例えば「シビルウォー/キャプテン・アメリカ」の制作予算は約2億5千万ドルhttp://www.boxofficemojo.com/movies/?id=marvel2016.htm)。2億5千万ドルあれば「君の名は。」が20本以上作れますね。

これだけの予算をかけて興行がズッコけようものなら関係者の首は「キングスマン」のあのシーンの如く飛びまくること間違いありません。

だからマーベル・スタジオは可能な限り興行的失敗のリスクを減らすような映画作りを心がけているはずです。彼らがどのように「外さないものづくり」をしているか考えてみましょう。

狙うは「大衆」

映画興行で最重要とも言えるポイントは「普段映画を見に来ない人にも見てもらう」ことにあります。大ヒット映画とは「年に数回しか映画を見ない人が見に行った映画」と同義なのです。

 映画ブログなんてやってる映画鑑賞が趣味の暇人は宣伝なんてしなくても勝手に劇場に湧いてきます。だから映画に興味のない層に向けたアピールに映画会社は必死になるんですね(洋画のタイトルをやたらとダサくし変えたり、ポスターを過剰なまでにダサくわかりやすくしたり)。

1人の映画マニアに4回見てもらえるような映画よりも、4人家族に1回見てもらえる映画のほうがずっと作りやすいと思いませんか?

 

 大衆は「バカ」である

「ブレイクするっていうのはバカに見つかること」と言ったのは有吉弘行ですが、この言葉は映画を始めとして様々な業界で通用する至言です。大衆を下に見ているように聞こえるかもしれませんが、この発言は「コンテンツが多くの人の目に触れる場合、そのコンテンツについてよく知らない(=リテラシーの低い)人がかなりの割合でいる」という風にも読むことができます。

少し抽象的になったので具体的な話で説明しましょう。例えば「スパイダーマン:ホームカミング」を劇場に見に来た人の内、はたして何割が「アベンジャーズ」や「シビルウォー/キャプテン・アメリカ」などの以前の作品を見たことがあるでしょうか? もちろんそれらの作品群を見ている人は多いはずです。でも中には当然いきなり「ホームカミング」を見に来たという人もいるはずですよね。

スパイダーマン:ホームカミング」の制作陣は、アイアンマンやキャプテン・アメリカについて観客が十分な予備情報を持っていない可能性を考慮して映画を作ったに違いありません。実際予備知識なしで見ても本作は十分に楽しむことができるようになっています。

実に当たり前な話ですが、大衆ウケを狙うには誰でもわかるように作ることが非常に重要になってくるのです。

誰が見ても80点のクオリティを目指す

映画を点数付けするのはあまり好きではないのですが、私がマーベルの作品を点数付けするとしたら、そのどれもが80点前後の出来に思えます。

80点の映画とは言い換えれば「確かに面白い映画だけれども、今年一番ってほどでもない」と言いたくなる評価です。実際マーベルスタジオの作品は、興行成績こそ素晴らしいもののアカデミー賞などの賞レースではあまり見かけることがありません。

批評家やマニアから絶賛を受けた作品が大衆から評価されるとは限りません。そして賞レースでは批評家の票が大きな力を持っていても、興行においては批評家も一般人も同じ1800円の映画料金しか払いませんから。

批評家やマニアから「くだらないエンタメ映画」と言われず、大衆を満足させるのは並大抵のことではありません。マーベルやピクサーはやろうと思えばより底の深い作品を作れるはずですが、あえて間口を広げるためにシンプルなものづくりを意識しているのではないでしょうか。

「誰が見ても80点の作品を目指す」というのは何もわざと手抜きをしろなんて意味ではありません。最善の努力を尽くし、誰からも受け入れられる作品を意識した結果もたらされるのです。

とにかくテンポを重視する

マーベル実写映画が他の映画作品と一線を画しているのは、ストーリー進行のテンポの良さです。今回の「ホームカミング」と過去のサム・ライミ版「スパイダーマン」を比較すれば物語の進む速度が圧倒的に違うのが一目瞭然です。

サム・ライミ版ではピーター・パーカーがただのオタク少年から超能力を持ったクモ人間になるまでをじっくり描いたのに対し、「ホームカミング」ではそもそも映画が始まった時点でピーターは超能力を持っています。「ホームカミング」を見る観客はアクションシーンを待ち詫びてイライラすることがありません。

テンポの早さがもたらす一番のメリットは、観客の「飽き」防止でしょう。2時間以上もの間じっとしてるのは意外と集中力を使うものですが、マーベル映画はそれこそ息もつかせぬ展開で観客を楽しませ続けます。マーベル映画は全体の傾向としてどんどんカットを割っていて長回しが少ないのですが、これは明らかにテンポを意識しているためです。

またテンポが早いと脚本や設定上の細かな矛盾点などを自然に隠蔽できるメリットもあります。観客は映画のスジについていくのが精いっぱいで、「ここの設定はさっきのアレと辻褄が合わなくない?」など重箱をつつく暇がありません。スーパーヒーローもののようなバリバリのフィクションを受け入れさせるのにテンポの良さは不可欠なのかもしれません。

 

毎回似たような作品でありながら細かな違いがある

ヒーローものには「主人公がヒーローになる(もしくは元からヒーロー)→悪役が現れて悪事を働く→ヒーローが悪役を倒す」のような暗黙の定型があります。

九割九部のヒーローもの映画はこの定型の通りに物語を進行させます。「主人公がヒーローになったけど悪役が強すぎて倒せない」なんてストーリーは斬新ですが、そんな映画を見たい人はほとんどいないでしょう。

「アイアンマン」も「キャプテン・アメリカ」も「ドクター・ストレンジ」も普通の人間が何かをきっかけに世界を守るヒーローになる英雄誕生のお話です。マーベルはヒーローが生まれる話を何回も繰り返してきました。

普通同じようなお話を何度もされれば飽きてくるものですが、少なくとも私はマーベル映画に「またこのパターンか」とため息をついたりはしません。なぜならマーベル映画では登場するヒーローによって行われるアクションの性質が全く違うからです。

「アイアンマン」なら空を飛び回りビームで豪快に敵をなぎ倒しますし、「キャプテン・アメリカ」なら格闘戦中心のアクション、「アントマン」は小さくなる能力を最大限に生かした映像で……といった風にヒーローが違う時点で同じような物語でも違った映画として成立しているのです。

またアクション以外の面でも「ドクター・ストレンジ」ではクライマックスでヴィランを倒す際にかなり特殊な方法を使ったりと、とにかくマーベルはそれぞれの作品にその作品・ヒーローにしかないアイデンティティを付与しています。

「期待に応えて、予想を裏切る」はマーベルの得意技なんですね。

まとめ

以上で書いてきた項目をざっと並べるとこうなります。

  • 儲けるには大衆ウケを狙え
  • 大衆は「バカ」(情報リテラシーが不揃い)であると知る
  • 誰が見ても80点のコンテンツを目指す
  • テンポを重視
  • 似たようなコンテンツを連発しながら、それぞれに細かな違いを作る

ここまで抽象化してしまうと一般論っぽくて少し退屈ですが、抽象化したからこそ映画製作だけでなく様々なものづくりで使えるハウツーになったということで許してください(笑)。

さて「スパイダーマン:ホームカミング」の話をあまりしていないような気もしますが今日の記事はこの辺にしておきます。また「ホームカミング」の感想記事もアップするのでお楽しみに。

以上もゆるでした。