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「ハクソー・リッジ」前におさらいするメル・ギブソン監督作品と彼のマゾヒズム

離婚、DV、差別発言……スキャンダルが次から次に飛び出すハリウッドのスキャンダル王メル・ギブソン多くの映画ファンがメルギブの映画を観て、人間性とその人のこなす仕事が大して関係ないことを学びました。

そしてスキャンダル続きで不調だった彼が十年ぶりに送り出した最新作「ハクソー・リッジ」が日本でもいよいよ6/24よりロードショー!

この記事は「ハクソー・リッジ」公開に合わせ、メル・ギブソンのメの字も知らない方に向け彼の魅力を知ってもらうためこれまでのメル・ギブソンの経歴を紹介し、彼の作品を一貫する要素「マゾヒズム」について考察します。

目次

 メル・ギブソン:オリジン 俳優時代

この記事は監督としてのメルギブを紹介するもので、俳優メル・ギブソンのエピソードをだらだら書くつもりはありません。しかし、やはり彼の育ちの国オーストラリア発の映画「マッドマックス」にて主演を務めブレイクしたことは特筆しておくべきでしょう。彼の濃ゆーい顔は人々に「マッドマックス」と共に強く記憶され、その後ギブソンはハリウッドへと進出します。

リーサル・ウェポン」シリーズなどでハリウッドでも俳優として成功を重ねた彼は93年に主演も兼ねた初監督作品「顔のない天使」を制作、映画監督メル・ギブソンの誕生です。

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「ブレイブハート」

95年にはまたしても監督兼主演を務めた「ブレイブハート」が公開されます。13世紀スコットランド独立戦争を題材とした本作はその年のアカデミー賞で10部門ノミネート・5部門受賞と、驚異的な成功を収めます。

製作費7000万ドル越え、約3時間の長尺、さらに鉄鎧を纏った歩兵や騎兵が何百人と立ち並ぶ大規模な白兵戦、「ブレイブハート」はまさしく歴史超大作と呼ぶに相応しい作品でした。

本作のラストシーンにはとにかく痛そうな描写が出てきますが(ビジュアル的にはグロくない)、「被暴力」はメル・ギブソン作品を一貫する共通テーマでありメル・ギブソンが変態マゾヒストと言われる由縁でもありますサウスパークでも言ってましたね)。

ブレイブハート (字幕版)
 

 

「パッション」

俳優業に続き監督としても大成功をおさめたメル・ギブソンが次に作った映画は宗教映画。実は彼は敬虔なカトリックで、どのくらい敬虔かと言えば自費で教会立てちゃうくらい敬虔なんですね。

それほどまでに信仰心のある人ですから、宗教的な作品も作ります。それが2004年の「パッション」です。

内容は有名なキリストの受難を描いたものなんですけど、これが映画としてとにかく異質な作品でキリストが二時間の映画の中で鞭打ちから磔刑までひたすら拷問され続ける映画なんです。

鞭打ちって聞いて皆さんどんなムチを思い浮かべます? ムチにも色々あってSMクラブなんかで使うのはあまり痛くない種類のものですが、当然「パッション」では超痛そうな一本ムチ、さらにさらに先端に鉄の欠片が付けられたドラクエの武器みたいなムチまで使われます。鉄付きムチなんて兵士が試しに振るったら机に鉄が「ザクッ」と刺さって、思わず「拷問ってレベルじゃねーぞ!」とツッコミを入れたくなります。

トーリーは無いも同然、だってキリスト受難劇なんて少なくともキリスト教圏の人ならみんな知ってますから。

さてマゾヒズムキリスト教というメル・ギブソンの二大テーマを兼ね備えた「パッション」は、R指定映画にしては異例のヒットを記録。どんなに歪な作品でも売れてしまえば成功は成功です。

ちなみに「パッション」は現在続編が構想中と監督本人がインタビューで明かしています。

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アポカリプト

スコットランド独立戦争、聖書物語と一風変わった題材を扱い続けてきたギブソンが次に挑んだのは、まさかのマヤ文明もの。タイトルは「アポカリプト」です。セリフも全部マヤ語で撮るこだわりっぷりは圧巻。字幕・音声選択画面で「マヤ語/日本語」と出てくるのがかなりシュールです。

ジャングルで平和な暮らしを送っていた主人公は、ある日高度な文明を持つ他部族に襲われ捕虜となります。捕まった主人公を待ち受けるのは奴隷としての過酷な暮らしか、と思いきや主人公は儀式の生贄として殺されることに……ってまた拷問&処刑かよ!どんだけ好きなんじゃ!といった作品です。

ライムスター宇多丸さんが絶賛していることで有名な本作品、実際わたしもメル・ギブソンのフィルモグラフィ中で最もエンタメ性が高く上手くまとまっていると思います。「ハクソ―・リッジ」前に彼の過去作を一本でも見ようと考える方には迷わず「アポカリプト」をオススメします(「ブレイブハート」は長いし、「パッション」のとっつきにくさは言わずもがな)。

ちなみに解釈の別れる衝撃的なラストシーンは、メル・ギブソン自身の葛藤の表れだとわたしは考えています。歴史的に揺るぎない事実がある以上下手な改変はできないけれど、かといって自身のキリスト教徒としての信条も捨てきれない、悩み悩んだ末あのようなどちらにもとれるラストになったのでしょう。

 

メル・ギブソンの作家性:強烈なマゾヒズムについて

ここまでの文章で既にメルギブ作品の持つ過剰なまでの暴力性には言及しましたが、暴力描写が直接マゾヒズムと結びつくことに違和感を感じる方もいるはずです。なぜなら単純に暴力描写を撮るだけならサディズムとも言えるのですから。

ですがメル・ギブソンの映画を見れば、彼が明らかに「暴力を受けている側」に立った映像表現をしているのがわかります。具体的なシーンを例に挙げながら考えてみましょう。

アポカリプト」:生贄の処刑

まずは捕虜にされた村人がピラミッドに連れていかれ、頂上で斬首されるシーン首チョンパする前に生きたまま心臓を抉り取るおまけつき)。

このシーンで特徴的なのは首が斬り落とされる寸前から切り落とされた後を映した主観ショットがあること(身体から首が切り離されてもまだ意識がある、というのを主観で見せる)。よくそんな悪趣味な映像撮るよなと思いますが、重要なのは処刑を受ける村人の主観をわざわざ見せている点です。

サディストな監督なら間違いなくこのシーンは主観ではなく、殺す側の視点で撮るはずです。しかしギブソンは殺される側の視点に重きを置き、どころか殺される人の視点をそのままショットに還元しました。

「ブレイブハート」:ウィリアムの拷問

また主観ショットほどあざとくないにしろ、暴力を受ける側に立ったショットは多く見られます。「ブレイブハート」ラストの拷問シーンがいい例でしょう。

イギリス軍に捕まったウィリアムは審問官による拷問を受けますが、締めくくりである一番厳しい拷問を描くシーンでは、カメラは終始ウィリアムの顔ばかり映しており、画面には使われている拷問道具も処刑人も映りません。観客はひたすらウィリアムが苦しんでいる様子を見せられます。やはりこのシーンでも視点は暴力を受ける側のウィリアムにあるんですね(もちろんウィリアムが主人公なので彼視点なのは当たり前ではありますが)。

被暴力に寄った描写

ここまでの二例でもわかるように、メル・ギブソンが暴力を描く時、視点はいつも暴力を受ける側にあります。それは最新作「ハクソー・リッジ」でも変わりなく、殺すショットよりも殺されるショットが遥かに多く挿入されています。

メル・ギブ映画の主人公はいつも「〇〇される」「〇〇された」被虐者です。だからこそ第二次大戦モノである「ハクソー・リッジ」でも、主人公は銃を持たず一歩的に狙われるだけの衛生兵なのでしょう

そして「ハクソ―・リッジ」へ

さて長くなりましたがこの記事はここらで〆とします。メル・ギブソンについては信仰の面からなどまだまだ語り残した話もありますが、それはまた次回アップする「ハクソー・リッジ」の記事で書くとしましょう。

白兵戦の泥臭さ、血生臭さをメルギブならではの視点で描いた戦争映画の新たな傑作「ハクソー・リッジ」、気になる方はいますぐ映画館へどうぞ!

以上もゆる(@もゆる2580)でした。

 

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