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「スプリット」は映画界における短距離ランナーだという話

記事を読む前にフルース・ウィルスから皆さまへのお願い

シャマラン映画のストーリーには“ある秘密”があります。この記事では直接的なネタバレは避けますが、まだ映画をご覧になっていない方でネタバレが気になる方は読む前に映画館へ行くことをオススメします。


『スプリット』本予告

目次

シャマラン作品の特徴

本作の監督は映画史に残るどんでん返し映画「シックス・センス」で一躍有名になったM・ナイト・シャマランこの監督とにかくどんでん返しが大得意で、撮る映画撮る映画クライマックスで観客があっと驚くような演出がされているのが最大の特徴です。

もう映画業界でのシャマランのイメージは完全に「どんでん返しの人」みたいになっていて、最近ではシャマラン本人が自身のtwitterで「今回のアカデミーの筋書きは僕が書いたんだ」みたいなツイートをしてたのが記憶に新しいですよね(89回アカデミーは作品賞で受賞作の発表間違えというどんでん返しがあった)。

彼の作家性を把握している観客はラストに衝撃的な結末が控えていると知っているため、伏線を探そうとして映画に没入しまた映画内のちょっとした出来事で疑心暗鬼になります。

シャマラン映画は観客がラストのどんでん返しの存在を知っている前提で作られているのです。シャマランがどんでん返し映画作家としてあまり知られていなかった「シックス・センス」でも、特殊な方法でどんでん返しの存在を主張しています。

その特殊な方法とは何か? 「シックス・センス」の本編が始まる前には主演であるブルース・ウィリスからのお願いという名目で「この映画のラストは衝撃的な結末だから、ネタバレしないでね」といった内容の警告文が表示されますが、このお願いこそまさにどんでん返しの告知なんです。

以上の通り、かなりメタな方法も使って作品を演出するのがシャマランの得意技。最近たまに見かける「ラスト何分あなたは絶対に驚愕する」みたいなキャッチコピーの映画は、ほとんどシャマランの手法の流用といってもいいくらいです。

どんでん返しのデメリット

終わりよければ全て良しなんて言葉もありますが、映画におけるクライマックスの盛り上がりは往々にしてその映画の評価に直結します。だからこそ、ラストで観客にとてつもないインパクトを与えられるどんでん返しをシャマランは多用するのでしょう。

しかし、当然ながらどんでん返しにも弱点があります(無敵のヒーローにもひとつだけ弱点があるように!)。

弱点とはつまり、一度ネタがバレれば最後どんでん返しは一切の効果を失ってしまうことです。それ故にシャマラン監督は極端にネタバレを危惧して「ウィリスからのお願い」を挿入したりするわけですが、仮に悪意あるネタバレを防げたとしても、どんでん返しを中心にした作品は二回目以降の鑑賞時には面白さが激減してしまいます(シックス・センス」はタネに気づいても十二分に楽しめるが故に彼の代表作として揺るぎない評価を得ているのでしょう)

初見の観客からは良い反応が得られても、時間の経過とともにネタバレが蔓延したり二回目以降の鑑賞者が増えたりすることで作品の評価に影が落ち始める。

シャマランの映画は例えるならば短距離ランナーそのもの。彼の映画には爆発的な瞬発力はあっても長距離を走るスタミナは備えていないのです(別にそれが悪いとか言いたいのではなく)。

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映画界の長距離ランナー

シャマランが撮るようなどんでん返しを主軸にした作品が短距離ランナーなら、長距離ランナーと呼べる映画はどのような作品なのか。

上映直後は賛否両論でも、少しづつ人気を獲得していき今では映画史に残る大名作とされている作品こそ映画界の長距離ランナーといえるでしょう。

そんな長距離ランナー的映画の代表が皆さんご存知スタンリー・キューブリック2001年宇宙の旅です。クラークの書いたシナリオから大幅に情報量を少なくしたおかげで映画本編だけ見ていたのでは意味不明な本作は、やはり上映直後のレビューでは賛否両論な論じられ方をしています(その辺の当時の反応は最近洋泉社から出た『映画評論・入門!』に載っています)。しかしその後「2001年」は町山さんの解説本などが出回ったりしたおかげで正しい読まれ方をされるようになり、今では不屈の名作として映画界に君臨することになったわけです。

映画評論・入門! (映画秘宝セレクション)

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 長距離ランナー的映画の特徴として挙げられるのは、難解で一度見ただけでは作品の良さが理解しがたいことでしょう。そのような作品は、映画がビデオ化されたりテレビ放送されたりすることをきっかけにブレイクする傾向にあります。

それで「スプリット」どうよ

さていよいよ「スプリット」の話題に移りますが、もう「スプリット」のラストは良い意味でも悪い意味でもシャマラン史上稀にみるとんでもないどんでん返しなんです。

確かに本作のラストは全く予想できませんでしたし度肝を抜かれました、でも同時に「そんなどんでん返しありかよ」といった肩透かしの感も強かったのが正直なところ。

多重人格者をジェームズ・マカヴォイが演じてるのもあってクライマックスあたりからなんかX-MENっぽくなってきたなと思ってたら、シメはまさかのシャマラン・シネマティックユニバースですか!

映画全体の出来としてはカメラワークの上手さが目立つと同時に、思わせぶりなシーンが多すぎてちょっと鬱陶しかったというのがざっくりした印象です。24の人格を演じるマカヴォイの演技は当然見ものなので一人の役者の演技の限界を観たい方にはおすすめできる作品ですね。あとこの映画、着エロというか、薄着の女性に対するフェティッシュをかなり感じたのは私だけ……?

では最後に一応未見の方のために町山さんの先日のツイートを引用して終わりにしたいと思います。

 

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