【感想・レビュー】カンフーによるカンフーのためのカンフー映画「イップ・マン 継承」
カンフー映画と聞いて読者の皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
悪漢に虐げられる善良な民、颯爽と現れるカンフーの達人、ちぎっては投げられる悪漢たち、悪い奴らは逃げ帰り町に平和がもたらされめでたしめでたし。
さすがにそんなステレオタイプのカンフーを想像される方は少ないかと思います。
ですが「イップ・マン 継承」はそんなベッタベタのカンフーを純度100パーセントで見せる名作なんです!
この記事ではドニー・イェン主演の「イップ・マン」シリーズ三作目、「イップ・マン 継承」の魅力をご紹介します。
目次
あらすじ
1959年香港、街は経済成長の真っ最中だったが、町の治安は悪化の一途を辿っていた。
不動産屋の強引な地上げに困惑する市民たち、そんな彼らの声を聞きつけ詠春拳の達人イップ・マン(葉問)は立ち上がった。
武装した大量の敵、ムエタイの使い手、黒人ボクサー、イップ・マンの前に強力な刺客が立ちふさがる。
そして最強の敵は、もう一人の詠春拳の達人だった……
純粋にカンフーを見せるために作られた脚本
実は「イップ・マン」シリーズの過去作は、イップ・マンが中国の威信を背負って戦ったり、正しい武力の使い方をイップ・マンが示したりと、単なるアクション映画に終わらない深いテーマ性が大きな魅力になっていました。
しかし、今回の「継承」では小難しいメッセージみたいなものは大胆にカットされており、映画前半はイップ・マンが悪い地上げ屋と戦うという勧善懲悪のお手本のような脚本になっているんですね。
あまりにもシンプルなストーリーに見ている観客は「もはやここまで居直られたら大手を振って楽しむしかないな」という感じになってしまいます。
過去最高のアクション密度、カンフー&カンフーな2時間
正確に時間を測ったわけではないので確かなことは言えませんが、「継承」は過去2作と比較して圧倒的にアクションシーンの総量が多くなっています。
もう見終わった後はカンフーでお腹いっぱいです。しかも量だけでなく、質もいいんですから尚更ですよ。
この映画はいわばカンフーの満漢全席。
一対多数のアクションあり、ムエタイあり、そしてマイク・タイソン扮する黒人ボクサーとの対決もあり! そして、そして、そして! クライマックスには熱すぎる同門の武術対決! 棒術に剣術とバリエーション豊かなカンフーで観客は全員アドレナリン出まくり。脳みそ沸騰もんのカンフーアクションがここにあります。
アクションシーンを詰め込むために脚本の整合性はある程度犠牲にしたのか、展開が唐突すぎる部分もあるのですが(ムエタイ男の登場から退場までのスピード感は「ゴジラFINAL WARS」のジラを思わせる)、アクションを見せたいという制作側の意図がハッキリ伝わってくるので無問題(モウマンタイ)!
映画とカンフーの相性の良さ
我々のような映画オタクは、映画を観るとき常に「このシーンに映ってるコレにはどういう意味が込められているのか」なんて無粋なことを考えているわけですが、純粋なカンフーを前にはそのような詮索は全く必要ありません。
カンフー映画のカンフーというのは行為としてだけ存在しており、何のメタファーでもなければ何の意味合いも持っていないのです。
もちろん単純に行為でしかないものを映すだけなら簡単なのですが、純粋な行為が映像になった時にエンターテイメントとして成立することがスゴイんです。
かつて映画が発明された当初、人々は馬が走るだけの映像や電車がこちらに向かって迫ってくるだけの映像を楽しんで鑑賞できましたが、映像が飽和した現代では馬が走るだけでは人の心は動きません。
しかし、カンフーは違います。綿密な計算と役者の高い身体能力・演技力を基盤にして行われるアクションは、純粋な行為としてエンターテイメントたりえるのです。
ブルース・リーのカンフーが世界中のアクション映画に影響を与えたのは偶然ではありません。カンフーがただの戦闘のためのツールでなく、思想性や、肉体の限界に挑戦する芸術性すら含んでいるからこそ、私たちは映画の中のカンフーひいてはアクションに感動させられるのではないでしょうか。
「イップ・マン 継承」は映画におけるカンフーの偉大さを改めて確認させてくれました。
あとがき
長々と文章を書き連ねましたが、本作の良さをテキストで語るのは不可能です。なぜならアクションこそが本作の最大の見どころだから。アクションを見てもらわないと始まらないんです。だからこそ、興味の湧いた方にはぜひ観ていただきたい「イップ・マン 継承」。公開館が少ないのが本当に惜しいのですが、これだけ良質なカンフーはスクリーンで見るべきでしょう。
記事で述べたように本作はカンフーを見せるのに特化した脚本になっているため、過去2作を未見でも十分に楽しめるはずです。ドニー兄貴の活躍が気になる方は2千円握りしめていますぐ劇場に走りましょう。
それではみなさん、ツォイギン!(さよなら!)
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