~ディズニー映画に同性愛が生まれた瞬間~実写版「美女と野獣」評【感想】
今年3月、実写版「美女と野獣」で悪役ガストンの子分ル・フウが同性愛者として脚色されていたことが話題を呼び起こした。
このことから一部の国では上映禁止の声すらあがった「美女と野獣」。
監督ビル・コンドンはなぜ、原作にはない同性愛の描写を入れたのか? それはどのような効果を発揮しているのか?
ディズニー映画の多様性に焦点を絞り考察してみよう。
目次
あらすじ
ある日失踪した父を探すため、村を出た少女ベル。捜索の末彼女は森の中にある寂れた城へと辿り着いた。ベルが城に足を踏み入れると、動く家具・喋る食器、そして醜い野獣が彼女の前に姿を現した。
野獣には呪いがかけられていた。魔法のバラが枯れる前に野獣が誰かと愛し合わなければ、彼の呪いは永遠に解けることは無くなる。
ベルの父は野獣によってこの城に捕えられていた。ベルは父の身代わりとなり城に幽閉され、2人の同居生活が幕を開けた。
変わり者の美女とわがままな野獣の間に愛は芽生えるのか……
アニメ版と実写版の相違点
実は「美女と野獣」というタイトルの映画はかなりの数存在するが、ご存じの通り今回の実写版は1991年にディズニーが制作したアニメ版の実写化作品だ。
実写化にあたって脚色が加えられたのはディティールのみで、ストーリーの大筋はアニメ版も実写版も大差はない。
しかしながら、アニメ版を踏まえて本作を観ると、アニメでは違和感の感じられた(ストーリーの整合性に納得いかない)場面に適切な脚色が加えられているのがわかる。
原作の味はそのままに、フォーマットの変化によって歪んでしまう部分はしっかり手直しする。まさに本作は実写化映画のお手本ではないか。
これから映画館に足を運ぶ予定の方には、事前にアニメを観ておくのをオススメする。脚本の手際の良さに度肝を抜かれること間違いなしだ。
多人種・多文化への配慮
実写版「美女と野獣」がマイノリティへの配慮がある作品であることは既に述べたが、この映画がフォローするのは同性愛者だけではない。
その証拠は本来アニメ版にはほぼ登場していなかった黒人が、かなり積極的にキャスティングされていることだ。
「美女と野獣」の舞台はおそらく18世紀ごろのフランスだが、この時代の貴族の召使に黒色人種が何人もいたとは考えにくい。
つまりビル・コンドン監督は実写化にあたり、ストーリーでは整合性を重視した脚色をしながらも、同時にキャストの白色化を避けるためにリアリティをある程度犠牲にしているのだ。
ディズニー映画始めての同性愛者 ル・フウ
そもそもル・フウって誰?
ジョシュ・ギャッド演じるル・フウは、主人公ベルに強引な結婚を迫るガストンの弟分的な立ち位置のキャラクターだ。
腕っぷしが強く男前のガストンとは対照的にチビでデブのル・フウだが、頭の空っぽなガストンにとってル・フウは頼れる参謀であり一番の友人である。
「美女と野獣」でベルは野獣につくすが、ル・フウはそれ以上に献身的にガストンにつくしている。それこそ、「なぜル・フウはずっとガストンの言いなりなのか?」という疑問さえ湧いてくる振る舞いだが、その答えのひとつがガストンへの想いなのかもしれない。
同性愛描写は映画のどの部分なのか?
監督ビル・コンドンはインタビューで、ル・フウが同性愛者である可能性を示唆したが(イギリスの同性愛者向け雑誌「Attitude」4月号)、映画本編でル・フウが同性愛者だと直接示されるシーンはごく短い。
呪いが解けた後のダンスパーティーで、他のキャラクターは異性と踊る中、ル・フウが男性と踊ってるシーンが一瞬だけ映し出される。
直接的な描写はここだけで、あとはジョシュの細かい演技やセリフの端々から「もしかしたらル・フウはガストンが好きなのかもしれない」とほのめかす程度となっている。
彼についての描写を増やしすぎても映画のテーマがブレてしまい、かといって同性愛の示唆をこれより切り詰めれば演出意図が伝わらなくなるという絶妙なバランスと言うしかない。
ほんの少しの脚色でドラマがより鮮やかになる
ル・フウが同性愛者として描写されることは、単に政治的な意味合いだけをもつのではない。彼がガストンに恋しているのだとしたら、「美女と野獣」の物語はアニメ版とは違う解釈が可能になるのだ。
ル・フウの憧れの人であり最良の友人ガストン、ガストンは村一番の美人ベルに惹かれてあの手この手で彼女にアプローチを続けている。友人だからこそガストンの求婚を手助けしてやりたいル・フウだが、ガストンは彼にとって友達以上の存在だった。
ベルとの結婚が上手くいって欲しいのやら、欲しくないのやら、葛藤が解消されぬまま野獣討伐は始まり、ル・フウはガストンを亡くしてしまう。しかし結果的にガストンから解き放たれたル・フウは、新たな人生の一歩を踏み出すのだった。
ル・フウの視点から再解釈することで実写版「美女と野獣」は、恋人を失った男の悲劇としても読むことができるようになる。しかし悲劇は単なる悲劇で終わらず、最後にはル・フウが別の男性との愛を育む希望をも示す。
それがわずか数秒のル・フウのダンスシーンなのだ。
「美女と野獣」がディズニー初の同性愛を描いた作品になる意味
「白雪姫」、「シンデレラ」、「眠れる森の美女」と初期のディズニー映画のヒロインたちは皆受け身で、どこか女性への偏見が垣間見えていた。
そしてアニメの中のステレオタイプな女性のイメージを打ち破ったのが、他ならぬ「美女と野獣」のベルだった。
本ばかり読んでいる空想好きなベルは村では「funny girl(おかしな子)」と呼ばれるが、彼女は我が道を行き最後には心優しい野獣と結ばれる。
古い女性像からの脱却を目指した「美女と野獣」が実写化されるにあたり、同性愛というテーマを少なからず含んでいることには特別な意味合いを感じずにはいられない。
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あとがき
ディズニー映画は名作の宝庫だが、何十年も前の作品群にはステレオタイプな描写があることは否定できない。名作に積もった偏見という埃を払う意味でも、今後のディズニー実写映画には期待したい。今回のような素晴らしい脚色が施された作品を見るときが待ち遠しい。
「美女と野獣」、ミュージカル映画としても実写化映画としてもハイクオリティな今作を見逃す手はないだろう。
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