【感想】「T2 トレインスポッティング」はスコットランド版「けいおん!」なのかもしれない
吐き気がするほど汚いトイレで座薬型ドラッグをケツから入れてトリップ、主人公レントンは夢の世界で便器の中に顔を突っ込みそのままラリラリ。
麻薬に溺れる青年たちの日常をスタイリッシュに描いた名作「トレインスポッティング」(96年)が、20年の時を得て帰ってきました。
個人的に麻薬がフィーチャーされる映画が大好きで、「トレインスポッティング」も大好きな一作だったので、今回の「T2」も予告を見るたびに期待に胸を膨らませてました。
そんな「T2」を鑑賞してきたので、感想とレビューをお送りします。
目次
あらすじ
仲間を裏切ったレントンがヘロインの売り上げを持ち逃げしてから20年。
妻に分かれを告げられ家を追われたレントンは、故郷エジンバラへと帰ってきた。
結婚し子供もできたが、ヘロインがやめられないスパッド。
美人局で日銭を稼ぐサイモン(シックボーイ)。
刑務所で悶々と暮らすベグビー。
あの時から4人は何も変わっていなかった。
裏切者との再会で彼らの悲惨な人生は変わるのか……。
前作「トレインスポッティング」について
見ていない人のための解説
「T2 トレインスポッティング」はほとんど前作を見ていることが前提とした作りになっています。なので当たり前ですができるだけ「トレインスポッティング」を見てから鑑賞するべきでしょう。
ただ「T2」は別にストーリーが重要な映画でもないので、いきなり見に行ってもある程度は楽しめるかと思います。
そんな方に最低限知っていて欲しいのは、主人公のレントンが前作のラストで仲間を裏切ってヘロインの売り上げを一人で持ち逃げしたこと。
とりあえずこれさえ把握しておけば「トレインスポッティング」を未見でもある程度映画を理解できるはずです(ですがトレスポは本当に名作ですし、2時間投資して見てから劇場に足を運ぶことを強くオススメします!)。
そもそもタイトルの「トレインスポッティング」の意味は何?
「トレインスポッティング」というタイトルの意味については、映画の公開当時から話題になっていたようです。
それもそのはず、劇中ではtrainspotting(この言葉自体はいわゆる電車オタクを意味する)なんて言葉は一回だって出てこないんですから。
「じゃあ結局trainspottingってどんな意味なの?」答えは、麻薬中毒者を指す隠語でした。廃線になった操車場でドラッグをキメるヤク中を揶揄して「trainspotting(鉄道オタク)」と呼んでいたんですね(※1)。
今作の「T2」では明確にtrainspottingの意味について言及するシーンもあり、やはり上の解釈が正解だったと明らかになりました。
世界一オシャレなコメディ映画
クズのオッサンの映画なのにスタイリッシュ
この映画、ワンショットワンショットがとにかく象徴的でカッコイイんです。
例を挙げだすとキリがないんですけど、あえてひとつだけ例を出すとしたら、レントンが実家に帰ってきて母親がもう亡くなっているとわかるシーンなんかは、影を滅茶苦茶上手く使っていてシビれました。
さらにカッコイイだけじゃなく、笑えます。
麻薬中毒者の悲惨な人生の映画のどこが笑えるんじゃと思うかもしれませんが、ほんとうに笑えるんです。
冒頭で自殺しようとして止められてゲロを吐くスパッドとか、年とってインポになりバイアグラを盗むべグジーとか、どうしようもない彼らのどうしようもない人生を見ていたら自然と呆れ笑いが零れてしまいます。
劇場でもちょくちょくお客さんの笑い声が聞こえてきました。
個人的ベストシーン「1690年!」の解説
“カトリックは全滅!”
「T2」の中で一番興奮したシーンはどこかと聞かれれば、私は迷いなく「1690年!」のシーンだと答えます。
金を稼ぐためにサイモンとレントンが訪れたのは、プロテスタントの集まるクラブ。そのクラブではプロテスタントたちが日頃の鬱憤をぶちまけていました。
皆が盛り上がる中2人は客の財布からクレジットカードを盗もうとします。「クレジットカードなんか盗んでも引き出せないんじゃ?」と思う訳ですが、プロテスタントクラブに集まる人たちはみーんな暗証番号を「1690」に設定していたのです(1690年はボイン川の戦いというカトリックとプロテスタントの戦争で、プロテスタント側が勝利した年)。
これだけでもイギリスギャグ、クリスチャンギャグとして十分面白いのですがこのシーンは他にも笑えるポイントがあるので鑑賞される方はお楽しみに。
「トレインスポッティング」=「けいおん!」
日常系として見るトレスポ
ゼロ年代以降に日本のアニメ・漫画で流行した「日常系」というジャンルがあるわけですが、「トレインスポッティング」はどこか日常系の臭いを感じる作品です。
「トレインスポッティング」及び「T2」にはこれといったストーリーがありません。あくまでも本作の焦点は「4人の日常」なんです。
多くの映画は始まってから20分以内に、この映画での主人公の目的を明らかにします。たとえば「JAWS」なら人食い鮫を倒してビーチに平和をもたらすことが目的です。
しかし「T2 トレインスポッティング」のレントンにはおよそ目的というものがありません。そして主人公が無目的だからこそ、本作は主人公を中心とした日常を描いた作品になるのです。
濃いキャラクター
日常系アニメの魅力は個性的な登場人物。ストーリーが無い以上、作品を面白くするためにキャラの力は必要不可欠ですからね。
「けいおん!」に個性豊かなかわいいキャラが出てくるように、「トレインスポッティング」にも豊か過ぎる個性のせいで貧しい暮らしを送っているキャラが登場します。
キャラの魅力が無ければ間違いなくこの作品は成立しません。
「とれすぽ!」-まとめにかえて-
レントン、サイモン、スパッド、ベグビー、4人は20年のブランクの間に何一つ成長しませんでした。
そんな彼らですから、当然「T2」でも成長しません。この映画が幕を下ろす時の4人は、前作の冒頭の4人とほぼ同じです。20年間で彼らが手に入れたのは皺くらいなものです。
「T2 トレインスポッティング」のテーマについて監督のダニー・ボイルはインタビューでこう答えています。
前作より告白的要素のある映画で、前作に登場したキャラクターを柱に手掛けた。脚本家のジョン・ホッジと僕は、キャラクターが年を取ることを認めていく過程を描いているが、ミッドライフ・クライシス(中年期特有の心理的葛藤)ではない。多少奇妙に聞こえるかもしれないが、『男は成長しない』ことをたたえているんだ。いかに男が過去の栄光にすがり、年を重ねるごとに情けなくなっていくかを描くことで、観客も楽しめる映画になった。(※2)
成長しないことは、日常系の特徴のひとつでもあります。ただサザエさんのように生物として年もとらないのでなく、老けてはいるが人格は成長しないのが「トレインスポッティング」というおかしな日常系映画のポイントです。
情けなくてクズで麻薬中毒者、そんな中年男たちの活躍が気になる方は今すぐ劇場へどうぞ。
参考サイト
※1 「トレインスポッティング」の意味についての正しい理解 - *The Best of Both Worlds*
※2 男は成長しない!『トレインスポッティング』続編のテーマとは - シネマトゥデイ
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