ハリウッド実写版「GIS」前におさらいする押井版「攻殻」
スカーレット・ヨハンソンを少佐役に起用し、公開を間近に控えたハリウッド実写版「ゴースト・イン・ザ・シェル」。
この記事ではそんなハリウッド版「攻殻」を2倍楽しめるように、押井版「攻殻」を徹底的に解説します!
目次
海外で大ブレイクした「Ghost in The Shell」
ビルボード売り上げ一位
士郎正宗の原作マンガ「攻殻機動隊」を劇場アニメ化した、押井守監督の「Ghost in The Shell/攻殻機動隊」ですが、本作のヒットを語るうえで海外での支持は外せません。
ビルボードのビデオ売上ランキングで一位を飾った攻殻は全世界で合計100万本以上もの売り上げを出し、アニメ史に堂々たる記録を残しました。
ハリウッドへの影響
押井版「攻殻」がハリウッドの与えた影響は非常に大きく、ウォシャウスキー兄弟の「マトリックス」が「攻殻」からストーリーと映像の両面でインスピレーションを受けているのは余にも有名な事実です。
首の後部にプラグを指しネットの世界にダイブするネオたち。高層ビルから飛び降りながら銃撃戦を行い華麗な着地をみせるトリニティ。
「マトリックス」のあちこちに押井版「攻殻」を連想させるシーンが散りばめられています。
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なぜ国内よりも海外でヒットしたのか?
私は「攻殻」が海外で爆発的なヒットとなった理由のひとつは劇中に登場する義体とゴーストという概念が、肉体と魂というキリスト教的な二元論にリンクするからだと考えています。
劇中では義体とはゴーストの入れ物に過ぎず、同じようにキリスト教圏の人間にとって肉体はあくまで魂の入れ物でしかありません(キリスト教とひとくくりにしてしまうのは乱暴かもしれませんが)。
そもそもゴーストという概念は、初めて「攻殻」を見る人にとっては甚だ疑問な言葉です。押井版では台詞に何度も登場するゴーストという単語についてほとんど説明がされません。
「攻殻機動隊」の作品群においてゴーストとは、自我や意識、または魂のような意味合いで使われるわけですが、クリスチャンなら直観的にゴーストという言葉の使われ方を理解できたのかもしれません。
押井版「攻殻」のあらすじ
※ネタバレあり
起.高層ビルからの落下~オープニング
“あら、そう”
「Ghost in The Shell/攻殻機動隊」は主人公である少佐こと草薙素子が、高層ビルの屋上から飛び降り、ビルの中にいる海外の要人を暗殺するシーンから幕を開けます。
光学迷彩が解除され姿を現す裸の少佐、見事な受け身をとった少佐は高所からの落下でも全くの無傷。そしてシーンは変わります。アジアンなテイストの民謡をBGMに映し出されるのは、少佐の義体が徐々に作り上げられていく様子です。
映画の導入となる一連のシーンは、少佐の体が機械でできていることと彼女の高い身体能力を映像で語った素晴らしいオープニングです。
承.脳をハッキングされた男
続く場面では少佐が属する組織公安9課、通称「攻殻機動隊」の日常、つまり任務の遂行が描かれます。
高度なテクノロジーをもって設計された装備を使うのは少佐たちだけではありません。犯罪者たちも光学迷彩で姿をくらまし、9課と渡り合います。
そして用水路の果てにあるため池のような場所での戦闘の末(このシーンは実写版でも使われていました)犯人は逮捕されます。
しかし捕まえた犯人たちは事件について何も語らない、語れません。犯人らは全員何者かによって偽の記憶を植えつけられコントロールされていたのです。
ゴーストハックされた犯人兼被害者を見て、バトーがこぼす言葉がなんとも印象に残ります。
“疑似体験も夢も、存在する情報は全て現実であり、そして幻なんだ”
転.人形使い
“いち生命体として政治的亡命を希望する”
事件の黒幕は“人形使い”を自称するハッカーでした。人形使いは人間ではありません、彼女は情報の海を泳ぐプログラムが進化して誕生した生命体でした。
捕獲され9課の本部で解析される人形使いですが、解析の最中に人形使いの回収を目論む別の組織「6課」が9課本部を襲撃し、人形使いを連れ去ります。
9課の一員であるトグサがこの襲撃を事前に感知するシーンがあるのですが、私はそここそが本作一番のお気に入りです。
ほんの一瞬だけ閉まるのが遅い自動ドア。違和感を感じたトグサは、電脳を使い瞬時に感圧センサーのデータにアクセスします。カメラには2人しか映っていないにもかかわらず500キロ以上の数値を示す感圧計。こうしてトグサは光学迷彩で本部に侵入した特殊部隊の存在に気づくのです。
単にテクノロジーそのものを描くだけでなく、テクノロジーがどのように使われているかも綿密に表現したSF映画のお手本のようなシーンです。
結.融合
少佐は人形使いを追い、辿り着いた先で思考戦車と戦います。少佐の目的は単に任務の遂行だけでなく、情報から生まれた生命体である人形使いと繋がる(お互いの電脳を接続する)ことでした。
人形使いは生命体ではありますが生殖能力も持たなければ死の概念もありません。だからこそ彼女は少佐と融合し、多様性や揺らぎ、そして死を得ようとします。会話の末、少佐は人形使いとの融合を選びました。
全く新しい存在となった“彼女”は未来世界の景色を見下ろしながらこう呟きます。
“さて、どこへ行こうかしら。ネットは広大だわ”
原作からの脚色で変わった点
バトーの恋愛感情
士郎正宗による原作のバトーは、素子を単なる同僚としてしか認識していません。それに対して押井版「攻殻」のバトーは明確に素子への恋愛感情を持っています。
劇中ではバトーが裸の素子に自分が着ていた服をかけてやる場面や、裸の素子を気にして後ろを向く場面など、バトーが素子を女性として意識しているとわかるシーンがこれでもかというほど繰り返されます。
そしてバトーの恋愛感情を最も端的に表すのが、ラストシーンで彼が口にする「いたければ、いつまでいてもいいんだぞ」という台詞。原作には同じ場面はあるものの、同じ台詞は出てきません。
「叶わぬ恋」は同じく押井監督の「パトレイバー2」でも描かれていましたし、監督の作家性のようなものなのかもしれません。
バトーの恋路が実写版のストーリーでも使われるかどうかは、なかなかに気になるところです。
圧倒的な情報量を誇る原作も必読
まとめ
本当にざっくりとしたおさらいでしたが、押井版「攻殻」について多少は解説できたかなと思います。
攻殻はいくつものシリーズがあるわけですが、今回の実写版は中でも押井版「攻殻」にオマージュを捧げているようなので、実写版の鑑賞前でも後でも押井版「攻殻」はぜひチェックしてほしい作品です。
実写版「GIS」、ちなみに私が楽しみなのは
このあたりでしょうか。
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