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「パッセンジャー」、巷で噂の宇宙タイタニックをレビュー

パッセンジャー」、早速見てきました。別に寝不足だったわけでもないのに前半少しウトウトしてしまいました。この壮大なスペースメロドラマ、またの名をスペース「タイタニック」を、ネタバレ無しでご紹介します。

広大な宇宙で孤独に生きる映画といえば、マット・デイモンが火星でDASH島をやってた「オデッセイ」が思い出されます。「オデッセイ」は自分vs自然(宇宙空間)という対立軸があったわけですが、これから当記事で紹介する「パッセンジャー」は自分vsテクノロジーという側面が垣間見られる映画です。

 

目次

あらすじ

20XX年、地球から遠く離れた座標にある惑星に向けて、乗客5000人を乗せた大型宇宙船が航空中だった。地球から行先の惑星までの道のりは、光速の半分で120年。乗客と乗務員たちはコールドスリープ状態で来るべき着陸の時を待っているはずだった。

しかし、宇宙船の発進から30年が経過した時点で、ある乗客が誤ってコールドスリープから解凍されてしまった。

残りの人生を船内で過ごすことを余儀なくされたエンジニアのジム。やがて彼はコールドスリープされている一人の女性を見て、恋に落ちるが……。


Staff&Cast

監督:モルテン・ティルドゥム…「イミテーション・ゲーム

主演:クリス・プラット…「ジュラシック・ワールド」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー

ジェニファー・ローレンス…「ハンガー・ゲーム」「世界にひとつのプレイブック

努力の跡は見られるが、それでも退屈な前半

うーん、この映画、序盤のテンポはそこそこ軽快ではあるんです。

目覚めたばかりのクリスプラットが、いつの間にか髭ボーボーになってるという大胆なフラッシュ・フォワードなんかも使ったりして、あれよあれよと言ううちに目覚めて最初の一年は経過します。

ただ問題はジェニファー・ローレンスが目覚めてから始まるラブロマンスで、あまりにも普通に「ラブロマンス」するんです。完全なストレートボール、しかも剛速球というほどの速度ではない、並なストレート。

つい先日記事で「私が映画をケナさない4つの理由」とか言っといて何ですが、眠くなりました。

しかし今作はやや退屈なラブロマンスパートさえ乗り越えれば、徐々に面白くなっていきます。

「オデッセイ」との相違点

「オデッセイ」と「パッセンジャー」に類似点があるのは導入で触れましたが、「オデッセイ」が火星という自然の中で必死にサバイブしようとする話なのに対して、「パッセンジャー」は物語前半ではおよそ命の危機というものに瀕しません。

タイタニックもびっくりな豪華宇宙船には、2人では食べきれないほどの食料が備蓄してあり、映画館、プール、バー(喋るロボット付)などの各種娯楽施設もあり、おまけに自動で医療処置を施してくれる機械までありとまさしく至れり尽くせり。

もうね、掘っ建て小屋でジャガイモばっかり食わされてた「オデッセイ」のマット・デイモンがこれ見たら泣きますよ。ボタンひとつで好きな食べ物出てきますから。サバイバルのサの字もありません。

親切すぎる宇宙船の設計は、序盤の緊張感の無さを助長しているぐらいなのですが、宇宙船の過保護っぷりは物語が加速する中盤以降への伏線でもあります。

機械は融通が効かない!

さてテクノロジーに甘やかされてイチャコラし続ける主役カップルですが、彼らを甘やかすのがテクノロジーなら、彼らを危機的状況に陥れるのもまたテクノロジーです。

そもそもクリス・プラットが旅の途中で目覚めてしまうのもコールドスリープの機械が故障したせいですし、本作では他にも様々な機械の仕様や不調が主人公を苦しめます。

「テザー(宇宙服につける命綱)の長さがちょっとだけ足りない!」

「IDのレベルが足りないからドアが開かない!」

「パスワード忘れちゃった!」

バーテンダーロボ、オマエ何言ってんだよ!!」

映画前半で宇宙船の便利さを散々描写したからこそ、船内設備がおかしくなりだす後半のサスペンスが際立ちます。

監督の前作「イミテーション・ゲーム」は、コンピューターの可能性に賭けコンピューターを愛した男の物語でしたが、本作はとことんテクノロジーに苦悩させられる映画なのです。

壮大なテーマ性あり? 

SFは往々にして寓話的に読み取ることができます。それは「パッセンジャー」でも例外ではなく、それどころか本作は非常にわかりやすい寓話性を持っています。

長旅の途中の宇宙船アヴァロン号は地球そのものであり、目的地に着くまで生きていられないことを知りながら船内で生きる2人は紛れもなく現代の地球人を示唆しています。

「無目的な人生をどう過ごすか」というのが「パッセンジャー」の秘めた寓話的テーマなのは予告を見ただけでもわかります。

しかし、そんなテーマはありきたりすぎますし、テーマに対して画期的な答えを出すことも不可能に近いでしょう。

だからこそ私はこの映画から読み取るべきは「機械とは、便利だが融通の効かないものだ」といった教訓なのだと説きたいのです。

まとめ

2001年宇宙の旅」でボーマンがエラーを起こしたHAL9000に殺されかけたり、スカイネットが人類に反旗を翻したりと、機械の融通の効かなさはSF映画で繰り返し語られています。

パッセンジャー」で問題となる機械の不調は、AIの反乱なんて大それた現象ではなく、現代でも常に起きているようなありふれた動作不良です。だからこそ、私はテクノロジーに悩まされる主人公に感情移入できたのでしょう。

途中でウトウトしといてなんですが、なかなかに楽しめる映画でした。クリス・プラットジェニファー・ローレンスに興味がない人も、前半さえ乗り切れば面白くなってくるので、どうか目覚めたクリスプラットと入れ替わりにコールドスリープしてしまわないようお気を付けてご鑑賞ください。