読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

“ほぼ”デイリーシネマ

レビューなのか批評なのか、はたまたただの駄文なのか。はてブ、読者登録、twitterフォローなどされると泣いて喜びます。

【ネタバレなし】「哭声 コクソン」監督の前作「哀しき獣」のレビュー

孤独な男のやるせない逃走劇

この前韓国人の友人と映画(ドクターストレンジ)を見に行ったんですが、エンドロールが始まってすぐ感想を私に話し始めて、ちょっとヒヤッとしました。別に私自身はエンドロールはそこまで集中して見る派ではありませんが、周りの人もいましたから。

どうも韓国ではエンドロールが始まると帰る人がほとんどだとか。文化の違いですね。

さて、与太話はほどほどにして本題に行きましょう。ナ・ホンジン監督の「チェイサー」「コクソン」と続けて書いたからには、今回紹介するのは「哀しき獣」しかありません。

目次

あらすじ

中国と北朝鮮の国境近くにある朝鮮自治州で暮らすグナムは、逃げた妻が残した借金の返済に追われ、貧しい生活を送っていた。

ギャンブル中毒のグナムはろくに金も返せず、見かねた借金取りは彼に裏仕事を紹介する。

その仕事とは、韓国に密入国してある男を殺して欲しいという依頼だった。苦渋の決断の末殺しを引き受けたグナム。

黄海の向こう側で過酷な運命が彼を待ち受ける……

哀しき獣(字幕版)

哀しき獣(字幕版)

 

 キャスト

さてさて、監督は「チェイサー」で一躍凄腕監督としてブレイクしたナ・ホンジン。「チェイサー」の主演二人を今作でもメインキャストに抜擢しています。

朝鮮族の男グナムは「チェイサー」でサイコキラーを演じた、ハ・ジョンウ。

正直に言いますと私、映画が終わるまでずっとグナムがハ・ジョンウだと気づきませんでした。坊主頭で髭を蓄えたジョンウは「チェイサー」の時とは完全に別人です。

そしてグナムに殺しの依頼をする朝鮮族裏社会のボスを、同じく「チェイサー」主演のキム・ユンソクが演じます。こっちは見た目は変わらないので一目でユンソクだとわかりました。

しかし人相は変わっていなくても役柄は前作とは似ても似つかない、「人類最強の男」感漂うオッサンキャラになっています。

襲い掛かる殺し屋を包丁だけで返り討ちにし、武器が無けりゃその辺に落ちてた牛骨で頭をカチ割る。もう本作だけでエクスペンダブルズ入隊ですよ。ジャッキー、ドニー・イェンあたりと組んでアジア版エクスペンダブルズ作りましょう

こんな映画だ「哀しき獣」

ナ・ホンジン監督前作の「チェイサー」が追いかける映画だったのに対し、今作「哀しき獣」は逃げる映画です。

殺しの罪を負ったグナムは警察に追われ、韓国のヤクザな組織に追われ、挙句同胞である朝鮮族の組織にすら追われます。

グナムはどっかのジェイソン・ボーンみたいに記憶を失う以前は諜報員として政府に育てられていた、なんてことはない一般人のはずですが、追い詰められた彼は火事場の馬鹿力を発揮して韓国中を逃げ回る。

この逃走シーンのアクションが、血みどろで、暴力的で、カッコいいんです。

当たり前ではありますが舞台は銃社会アメリカではなく韓国の映画なので、追手の持ってる武器はバット、ナイフ、包丁、手斧と原始的なものばかり。

銃で一発撃たれて終わり、のようなあっけない終わり方は無く、登場人物たちは刺されても殴られても何リットル血が出ようが動き続けます。たとえ死ぬ直前でも、一矢でも報いようと抵抗を続ける姿には畏怖すら感じます。

またアクションシーンのクライマックスとして用意されているカーチェイスは、はっきり言えば「ワケがわからん」のですが、とにかく白熱します。

なんとも血生臭いノワール映画です。

難解なストーリー

この映画はほとんど主人公が喋りません。「ドライヴ」のライアン・ゴズリングといい勝負です。「いい加減喋れよ!」と見ていてツッコミ入れたくなります。

そのため具体的な状況が説明不足で、各登場人物の行動の動機というのがイマイチ理解できません(もちろん役者の演技力や演出のおかげで、ある程度の行間は読み取れます)。

難解なストーリーといえば、同監督の「コクソン」も物語をあえて小難しくしていますし、どうも本作も意図的に物語のスジをわかりづらくしたように思えます。

ですが、「コクソン」ではわかりにくさ、混乱が映画的な快楽にまで昇華されているのに対して、「哀しき獣」のわかりにくさはモヤっとするだけです。

まあ「哀しき獣」の後に「コクソン」を撮っているので、好意的に考えればそれだけ監督が腕を上げたということなのでしょう(映画のえの字も知らぬ私が言うのは僭越ですが)。

やはり無能な警察

ナ・ホンジン監督の映画には、警察が無能な集団として描かれるという共通点があります。

それは本作でも例外でなく、逃げるグナムを追う警官たちはパトカーで彼を追っているのにも関わらず逃げ切られるという能無しっぷりを発揮します。またその後もう一度警官の出てくるシーンでは、無能さはほとんどギャグとして演出される始末です。

監督はそこまで警察が嫌いなんですかね。ですけど嫌いだから馬鹿に描く、みたいな単純な動機ではないと思います。だって本当に警察が嫌いならわざわざ警官を主人公にした映画撮らないでしょうし。

インタビューなんかでこの答えを見つけた方はぜひコメントください。

まとめと感想

なんだか話が横道に逸れて、あまり映画を褒めていないような気もしますけれど、「哀しき獣」は犯罪映画マニアの私も大満足の素晴らしいノワールでした。

あと濡れ場の色っぽさではこの1年で見たどの映画よりも抜きんでていました。愛のない肉欲だけのセックスというのもノワールとマッチしていましたしね。

宇多丸師匠のレビューでも言われていた通り、「哀しき獣は」映画としての完成度が高いというタイプの映画ではありません。しかし本作には確かな力がありますし、2時間半の長尺をダレさせない勢いもあります。

「コクソン」を鑑賞予定の方も、既に「コクソン」を見た方にも見ていただきたい「哀しき獣」、現在Netflixでも鑑賞可能ですのでぜひぜひチェックしてみてください。

 

moyuru6673.hatenablog.com

moyuru6673.hatenablog.com