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“ほぼ”デイリーシネマ

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【レビュー】「哭声/コクソン」の監督のデビュー作「チェイサー」を語る

昨年夏、韓国で大ヒットした映画「哭声/コクソン」が、3.11より日本でも公開されます。

カンヌ国際映画祭でも「近年の韓国映画ベスト」と言わしめた「コクソン」、監督はナ・ホンジンという方で、これまでに長編映画を二作撮っています(なんと二作とも大当たり、撮れば当たるデイミアン・チャゼルタイプの監督ですね)。

この記事では「コクソン」の公開を前にして、ナ・ホンジン監督の初監督長編映画「チェイサー」をレビューしたいと思います。

目次

チェイサー(字幕版)

あらすじ

元刑事の風俗店経営者ジュンホは、相次ぐ風俗嬢の失踪に頭を悩ませていた。やがてジュンホは消えた女たちの行方を探るうち、一人の連続猟奇殺人犯にたどり着く。

殺人犯ヨンミンはジュンホとの格闘の末逮捕され、意外にも素直に自白を始める。しかし犯行の証拠となる遺体だけは見つからなかった。

このままでは証拠不十分でヨンミンは釈放される、タイムリミットは12時間……。

「チェイサー」について

繰り返しになりますが、監督は「コクソン」「哀しき獣」のナ・ホンジン。長編としては当作が初監督作品であり、ブレイクのきっかけとなった映画です。

主演はキム・ユンソン、この人は同監督の「哀しき獣」にも主演出演しています。小太りで無精ひげを生やしいて、アウトローでありつつもどこか憎み切れない、そんな役です。いい演技してますよ。

猟奇殺人犯役をハ・ジョンウ、彼は今日本でも公開されてる韓国映画「お嬢さん」にも出てますね。何というか、ザ・韓国青年って感じのルックスです。

「チェイサー」は、ジャンル分けするならサイコスリラーとかクライムサスペンスとか呼ばれるタイプです。

映画開始30分で捕まる犯人

チェイサー(追撃者)というタイトルから、「ああ、犯人を主人公が追う映画なんだな」と予想する方が多いでしょう。

実は私もそう思っていたのですが、なんと冒頭30分程度で殺人犯は「たまたま」捕まりまります。見事に肩透かしを食らいましたよ。

そして殺人犯が捕まっても「時間内に犯行現場を突き止められるか」という形でサスペンスは持続します。

ハリウッド映画のシナリオが染みついた私にとって「チェイサー」は、予想外の連続でした。

特に一番驚愕したのは、ジュンホ(主人公)とヨンミン(犯人)が警察署で取り調べを受ける一連のシーン。ネタバレで面白さを損なわせたくないので詳しくは書きませんけれど、ヨンミンが自白するまでの流れが衝撃的です。

アクションもサスペンスも展開していないシーンで急速に物語を加速させるというストーリーテリングの技術には感服しました。

本物の悪人は捕まえてからも怖い

ダークナイト」のジョーカー、「羊たちの沈黙の」レクター、「ダーティーハリー」のスコルピオ、どれも映画史に残る名悪役たちですが、彼らは皆劇中で一度は逮捕されながらも悪事を働き続けます。本物の悪は身柄を拘束した程度では止められないのです。

その意味で「チェイサー」の猟奇殺人犯ヨンミンは、良い悪役、いや正真正銘の悪い悪役と言えるでしょう。

サイコキラーを題材にした映画は数多くありますが、当作はそのような過去の映画で見られた犯人の人物像や、犯人の狂気を描写する演出をしっかり押さえています。また韓国で実際に起きた連続猟奇殺人事件をモデルにし、事件と犯人についての綿密な調査を重ねていることも、「チェイサー」がA級のサスペンスになり得た理由でしょう。

「ダーティーハリー」と「チェイサー」

「チェイサー」と類似した構造を持つ映画を一作挙げるとするなら、それは「ダーティーハリー」しかありません。

ヨンミンは、動機なく快楽のためだけに殺人を続けるスコルピオと似通った部分がありますし、法で裁けないという点も同じです。

そのヨンミンを、(元)刑事の主人公が法ではなく自らの手で裁こうとするところも「ダーティーハリー」と被ります。

しかし当作が秘めたる主題は「ダーティーハリー」の提示したテーマとは異なっています。「チェイサー」が描こうとした主題はずばり「警察への不信」。

それは「大勢の警官に取り押さえられるジュンホ」という構図が劇中何度も登場することなどからわかりますし、また官僚組織としての警察の無能さをことさら強調していることからも読み取れます。

主人公は正義の存在ではない

主人公であるジュンホはヨンミンを裁こうと彼を追い続けますが、決してジュンホは「悪しきをくじく正義の味方」ではありません。

ジュンホはデリヘルを経営しており、デリヘルで働く女性たちを不当に虐げています。風邪ひいてる女性を無理やり出勤させるなど、彼のクズっぷりは映画冒頭で散々見ることができます。

この映画はは悪が巨悪を追う映画であり、悪人であるジュンホの贖罪の物語でもあります。

映画が進む中でジュンホは自らが犯した罪(性的搾取とそれに伴って起きた殺人事件)の責任を感じ、殺人鬼ヨンミンを追うことになります。序盤では単なる利己的な理由からの復讐のためだった追跡が、罪の自覚によって贖罪のためのチェイスに変わるのです。

感想とまとめ

「チェイサー」、2時間があっという間の素晴らしい映画でした。CGも使わず、アクションは走って殴り合うだけという泥臭さも、ダークな映画の雰囲気にピッタリハマっていて最高です。室内のシーンの画面の暗さはフィンチャーっぽくて私好みでした。

同監督の「コクソン」は明日2017.3/11から公開です。韓国映画だからと食わず嫌いせず、「チェイサー」も「コクソン」もご覧ください(食わず嫌いしてた私が言うのもなんですが、ナ・ホンジン監督ごめんなさい。参りました)。

では最後に「チェイサー」のお気に入りのセリフを引用してこの記事を終わります。

名もなき捜査員A「これは血じゃないか?」

名もなき捜査員B「キムチの汁だろう」