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”ほぼ”デイリーシネマ

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ディストピアSF映画であり、同時にグルメ映画でもある「ソイレント・グリーン」

ネタバレなし SF レビュー

ディストピアSF特集!今回の映画は「ソイレント・グリーン」!

以上!(適当)

もくじ

あらすじ

「本日分のソイレント・グリーンの配給は終了しました」

人でごった返すニューヨークに、メガホンの声が響き渡った。

2022年、熱くなった地球、汚染された大気、木は朽ち花は枯れ、人口の爆発的増加がもたらした慢性的な食糧不足は社会最大の問題となっていた。

人間以外全ての物が不足する世界を生きる刑事ソルはある日、元弁護士が殺された殺人事件に着手する。当局はこれを単なる強盗殺人と決めつけるが、ソルには事件が何者かによる暗殺だと確信していた。

上からの圧力を感じながらも捜査を続けたソルは、やがて未来世界の食糧生産を一手に担うソイレント社へと辿り着く。

ソイレント社の生産する高栄養食品ソイレント・グリーンに隠された秘密とは……

こんな映画だ「ソイレント・グリーン」

1973年のSF映画「ソイレント・グリーン」。

主演は「ベン・ハー」や「猿の惑星」のチャールトン・ヘストン。今回はハードボイルドな刑事ソルを演じます。

今作は食糧問題、地球温暖化人口爆発、大気汚染、と近年散々話題にされている環境問題を片っ端から詰め込んでいます、先見性ありますね(ちなみに原作は『人間がいっぱい』というSF小説)。

そして取り上げられる環境問題の中で物語の中心に関わるのは、人口爆発とそれに伴う食糧不足。

増えすぎた人口を表現するためにこの映画が選んだ手法は至ってシンプル、その手法とは屋内にひたすら人間を配置することです。

どんな画を想像しましたか? 満員電車みたいな感じですか? だとしたらあなたの想像は少し外れています。

今作では屋内に人がいるカットを撮る時は、決まって夜のシーンを撮影し大量のエキストラを地面に寝かせます。階段なんかにみんなで雑魚寝してるんです。

主人公ソルは安アパートの二階にまともな部屋があるんですが、二階に上がる階段にはいつも貧者が寝っ転がっていて足の踏み場が無い。

そしてこれみよがしに何回も、「寝てる人を踏まないように歩くソル」のカットをぶち込んできます。ラストのアクションシーンまで寝ている人だらけの場所で撮っているのは、異様なこだわりと言うしかありません。

食糧問題に関しては、プランクトンから作ったソイレント・グリーンと呼ばれるクッキーのような物が配給されていて、まともな食べ物はほとんど手に入らず超高値になっている、という設定でございます。

アメリカンニューシネマと「ソイレント・グリーン」

今作はもちろんSFではありますが、話のスジは刑事ものです。巨大な陰謀に単身で挑む、というあたりから「チャイナタウン」を想起させられます。

これ以上書くとネタバレになるので控えますが、アメリカンニューシネマの流れにある作品と言っていいでしょう。

と、言ってもシリアスな「タクシードライバー」や「チャイナタウン」とは違って、今見ると良い意味でかなり笑えるんですけどね。

 「ソイレント・グリーン」における未来描写

SF映画といえば、細部まで徹底された美術や絢爛なCGが見どころというイメージがあります。「ブレードランナー」でリドリー・スコットが作り上げた退廃的な街並みは、ブレランの看板になっていますし、多くのSF映画は「すごい映像が見られるよ」を宣伝文句にします。

ですが「ソイレント・グリーン」最大の特徴は、SFチックなビジュアルをほとんど使わずに未来世界を構築したことにあります(富裕層の家とかは若干のSF感はありますが、それ以外はほぼ70年代の街並みと変わりません)。

この映画にはおよそ未来の機械なんて出てきません。一番SFしてるガジェットをひとつ挙げるとすればそれは「ATARIっぽいゲームが遊べるimac的な機械」です。レトロフューチャー感が溢れすぎて目から涙も溢れます。

しかし、未来のテクノロジーが出てこないからといって今作がSF映画として劣っているわけではありません。

映画序盤、金持ちの元弁護士が殺された事件現場にソルは捜査に来ます。そして一通り捜査を終えた彼は、事件現場(元弁護士の家)にあった貴重な食べ物や酒を片っ端から持って帰ります。職権濫用もいいところです。

そして牛肉やら野菜を持ち帰ったソルは自宅でそれを調理して食べるんですが、この食事のカットがとにかくうまそうに食べるんです。リンゴは小さいくて野菜は萎びているのに至福の表情で咀嚼、バーボンをゴクリ。

おいしそうに食べるカットにここまで説得力を持たせた映画はなかなかありません。

「状況設定とうまそうに食べる役者の演技により食料の不足を徹底的に演出し、現実では当たり前にある物を映画内では非常に貴重な物として描いた」ことこそが、「ソイレント・グリーン」のディストピア描写テクニックなのです。

食事以外にもこのような「ありがたや」シーンは多数あります。

「シャワーからあったかいお湯が出る! ありがたや~」

「エアコンもガンガンにかけられる! ありがたや~」

日本の戦争映画で白米をありがたがって食べる様子はよく見かけるけれども、同じようなことを未来を舞台にした映画でやられるとここまで笑えるとは。

宇宙船が飛び交い、ロボットとエイリアンが暴れまわるような未来は無理でも、人口が増えすぎて食料が不足した未来なら描くことができる。

SF映画を撮るのに大規模なセットや豪華なCGは、必ずしも必要ないという事実をこの映画は我々に突きつけます。

撮影当時の技術でどこまで未来を表現できているかはSF映画を評価する上で重要になってきますし、その観点では技術や予算が限られる中創意工夫を重ね説得力のある未来像を提示した「ソイレント・グリーン」は素晴らしいSF映画だと言えるでしょう。

人間がいっぱい (ハヤカワ文庫SF)

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