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管理社会SFブーム到来?じゃあガン=カタの時間だ!「リベリオン」レビュー

近頃書店に足を運ぶとよくオーウェルの『1984年』が平積みにされているのを見かけます。なんでもトランプの大統領就任を受けてディストピアSFがブームになっているとか。

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というわけで、流れに便乗してディストピアSF映画で特集を組んでみたいと思います(決してブログのネタに困ったわけではありません。あと取り上げてほしい作品があれば随時コメントなどください)。

さてディストピアSF映画特集第1弾、取り上げる作品はリベリオン

※ネタバレは控えましたが、一部映画後半のシーンに言及しています。ただ読んでも映画の面白さにそこまで影響はないと思われます。

もくじ

あらすじ

第3次世界大戦後、次の戦争を勃発させぬため、政府はあらゆる感情を抑制する薬プロジウムを開発し、人民にこれを投薬することを強制した。

また感情を揺さぶる芸術品も禁止され、秘密裏に絵画などを所有する者は「クラリック」と呼ばれる執行官によって処刑された。

最高位のクラリックであるプレストンは、妻や相棒が目の前で処刑されても顔色一つ変えぬ男だった。

プレストンは銃と武道のハイブリッド戦法、通称「ガン=カタ」を駆使してテロリストを処刑し続ける。

しかしある日、彼はプロジウムの投薬をしないまま任務に向かってしまう。

無情の男には感情が芽生えはじめ……。

だいたいこんなだ「リベリオン

ダークナイト」のクリスチャン・ベール演じる主人公プレストンは、体制側の武装警察クラリックにて最強の男。

クラリックはガン=カタと呼ばれるガンアクションとカンフーを合体させたトンデモ戦法を駆使してバッタバッタと敵を倒します。

ディストピア映画特集と言いましたが、ハッキリ言って「リベリオン」はガン=カタが魅力の8割を占めるような作品です。アクション映画です。

敵の弾はとにかく当たらない避ける、そして撃った弾は全弾命中。どれだけ敵が多かろうが、戦いが終わった後立っているのはプレストン唯一人。

ガン=カタに関しては有名ですし、あまりこの話ばかりしていても仕方ないので、そろそろ管理社会の話をしましょうか。

※「リベリオン」を「マトリックス」の劣化とかパクリとか揶揄する意見もありますが、アクションはわりと別物です

リベリオン」におけるディストピア

映画内で、「ファーザー」と呼ばれる指導者は2つの方法で人民を管理し、服従させます。

1つ目がプロジウムと呼ばれる薬物で人間の感情を抑止すること。感情の抑制は、今作の肝となる設定です。

2つ目は人間の感情を揺さぶる芸術品や本を禁止し、燃やしてしまうこと。これは完全にブラッド・ベリの著した古典SF「華氏451度」と同じですね。

さて主人公プレストンは法外の芸術品を持っている反乱者を処刑し、焚書を行うクラリックという存在なのですが、あらすじにもある通り、ある日たまたまプロジウムを接種しなかったせいで彼の心に感情が芽生えます。

リベリオン」の矛盾点

感情が芽生えてしまったプレストン、禁制品の隠し場所に立ち入った彼はそこに置いてあったスノードームに目を奪われ、ベートベンの旋律に心を震わせます。もう彼は犬すら殺せなくなってしまいました(クリスチャン・ベールが仔犬を抱きかかえるシーンは爆笑もの)。

やがてプレストンは自身が逮捕した反乱者に同情を感じるようになり、徐々に政府への不信を募らせていき、最終的には単身で政府の打倒に挑みます。

なのですが、ここで矛盾に思える出来事があります。

禁制品を所持する反乱者や仔犬を殺せなくなったプレストンですが、こと政府側の武装警察は特になんの躊躇いもなく殺します。得意のガン=カタを使って。

支配者であり黒幕であるファーザーだけならまだしも、戦闘員Aみたいなモブにも一切容赦なし。

「元同僚を大量殺戮ってプレストンあんたホントに感情あるのかよ!」というツッコミが鑑賞中何度も頭に浮かびました。

しかし、必ずしも「リベリオン」は矛盾していません。

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 感情を持つということ

上で述べたように反乱者と仔犬の命は助けて、元部下は皆殺しにするというプレストンの行動は、一見すると矛盾しているように思えます。

しかし殺陣後、一人だけ生き残った役人をプレストンが見逃すシーンがあります。なぜこの役人を殺さなかったのか、それは役人が「武装していなかった」からです。

つまりプレストンは相手が武装しており、政府を打倒するという大義があるため「やむを得ず」元部下だろうと手にかけたわけです。

さて、結局私が何を言いたいかと言うと、つまり「感情を持ったからといって聖人君子になるわけではない」ということです。

ドナルド・トランプヒトラーも人間である以上感情を有しているはずです、でも別に彼らが素晴らしい人間だとは限りません。

そういう意味では「リベリオン」は矛盾していません。感情を持つ人間は常に矛盾を抱えているものです。

 秩序だった不自由と、渾沌とした自由

リベリオン」で政府が人民から感情を奪った理由は、冒頭で「第四次世界大戦を勃発させないため」と説明されます。

そして感情を抑制したおかげで戦争が起きていないのなら、少なくとも劇中では「感情があるから人は戦争を起こす」という論理が成り立ちます。

おそらくプレストンが政府を打倒し、新たな世界を築きあげても、その世界はユートピアにはならないはずです。

なぜならその世界は我々の住む地球と同じ、怒り・悲しみ・嫉妬といった感情が渦巻く世界なのですから。感情を取り戻した世界が新たな戦争を始めるのにはそう長い時間はいらないでしょう。

リベリオン」は、体制側の「抑圧されているが安全な世界」と、反体制側の「自由だが時に危険な世界」という2つの価値観の戦いを描いていたのです。

この対立軸は他のディストピアSFでもよく見られる構造なので、これから管理社会を扱う作品を鑑賞される方はぜひ頭の片隅に留めておいてください。

そして「リベリオン」、ガンアクションが好物の方には文句ナシにオススメできる映画です!

それで、私たちの暮らす現実がどちらの世界かって? 

そんなの「抑圧されてて危険な世界」に決まってるじゃないですか。