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”ほぼ”デイリーシネマ

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近未来社畜映画『ゼロの未来』感想編

レビュー

※この記事にはネタバレが含まれています。

ネタバレなしの紹介編はこちら

『ゼロの未来』感想

テリー・ギリアム監督作品はいつも万人向けとは言えない内容ですが、『ゼロの未来』は個人的にはドはまり映画でした。鑑賞後、監督やキャスト、スタッフの皆さんに拍手を送りたくなる出来です。劇場公開時に見に行かなかったのが本当に悔やまれます。

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SF映画というと大予算で大規模なセットを作って、CGもバリバリ使って作るというイメージが付きまといます。ですが『ゼロの未来』は見てみると、相当低予算で作られているのがわかります。序盤こそ近未来の街並みを派手に見せていますが、多くのシーンはコーエンの住む教会の中で撮影されていて、CGも最低限しか使用されていません。

それでも今作が「現実の延長線上にある異世界」を表現しきれているのは、演技や美術、衣装などの水準が軒並み高く、それらが映画を底から支えているからでしょう。特典映像では衣装代を抑えるためにビニールのテーブルクロスを素材として使った、という話もありました。涙ぐましい努力ですね。

天才童貞プログラマー、ボブ

今作の登場人物はどれも個性的で惹かれますが、中でも僕が気に入ったのがボブ。初めはウザい天才少年かと思いきや、ピザ配達人のお姉さんの谷間に興奮したり、コーエンのために夜なべしてVRスーツを改造してくれたりと映画が進むにつれ人間臭い人物であることが明らかになるキャラです。食欲や性欲に正直なボブは、冷徹で非人間的な父親(マネージメント)とは正反対な存在であると言えます。

ボブのコーエンへのなつきぶりを見ると、彼はコーエンに対して父性を見出していたとさえ思えます。まだ若いボブはプログラミング漬けの日々を送っていても純粋で瑞々しい心の持ち主。ボブとコーエンが公園に出かけるシーンは、映画内で最も人間らしい触れ合いが描かれています。

2つの顔を持つ女、ベインズリー

ベインズリーはコーエンとのラブシーンをロマンチックに演じてみせますが、彼女との付き合いでコーエンが得たのは一時の快楽だけでした。

ベインズリーは過去に父親とひと悶着あったらしく、コーエンにどこか父親の面影を感じています(その点ではボブと似ている)。そして同時に彼女はマンコムに雇われたコールガールで、コーエンの恋人を演じ彼を鼓舞して働かせなければならない。

彼女の心の葛藤は娼婦としての面と、父を失い傷ついた少女としての面、この二面性に還元されます(中盤ベインズリーに赤と緑の照明が交互に当てられる場面がありますが、あの場面こそが彼女の持つ二面性の象徴なのかもしれません)。

読み解くほど面白い、パズルのような映画

今作ではエンティティ解析をパズルゲームのような画面で表現していますが、また『ゼロの未来』という映画自体もひとつのパズルのような作品になっています。

『ゼロの未来』は一見すると難解な作品ですが、鑑賞する中でしっかりとメタファーや製作者の意図をくみ取り、かつ自身の想像力を最大限に発揮することでこの映画は一貫した意味を持ち始めます。

パズルの解き方は鑑賞者次第、解法はいくつも存在しています。「一度見たけどわかんなかった」という方もぜひ再見して、『ゼロの未来』というエンティティを自分なりに解析してみてください。